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【感想】小説「魔術士オーフェンはぐれ旅 女神未来(下)」 【号外】

※「女神未来(下)」の重大なネタバレを含みます。※

未読の方はご注意ください。曖昧にすることなく、物語の核心についてズバズバと書いてあります。

とりあえず、ざざっと読んでの臨時の感想といったところです。まだ落ち着いて再読できていないので、読み間違いなどが多数あると思います。あと凄く興奮しているので、文章がいろいろアレです。ご了承のうえ、閲覧ください。
いつものじっくり感想文はまた後日したためる予定です。


さて、いやもうなにこれ、もうどうしよう、どうしたらいいの、なにから話そうか。とりあえず人物別に語っていこうかな、うん。

ヴィクトール

あばばば、思っていたよりとってもアグレッシブ! 機動力のあるお坊ちゃまだった!
いやあ、実はけっこう好きなキャラで、再登場に(゚∀゚)ってなったんですが、ついてくるとか言い出して、大丈夫か?死ぬのか?死ぬなよ!?と焦りもしたんですが…。
口の上手い政治屋らしい、魔術士には馴染まないちょっと澄ましたお兄ちゃんかと思っていたら、いきなり鋏拾ってトンズラダッシュときた! すごい! びっくりした!
マルカジットに追いかけられたときは死ぬのかと思ったけど、死ななかった。それどころか、懐から華麗に拳銃を取り出して発砲! まじですごい…。おしとやかなメッセンジャーかと思ったら違ったわ。オーフェンと喧嘩するドロシーをいさめていた青年には見えない。能ある鷹は爪隠すとはまさにこのこと。いや、有能そうな雰囲気はばりばり放ってましたが。なんというか、ただのいい子ちゃんじゃなかったんだな、と。いい意味で裏切られました。
ヴァンパイアがいるローグタウンを目指しながら、温和な態度ながらも魔術士にとっては嫌みな性格で油断させておいて(いや、本人は嫌みなつもりはないんだと思いますが)、不意に訪れた機会を逃さず動き、迷いなく発砲する、これをマヨールとそう年の変わらない、しかも戦士でもなんでもない青年がやるわけですよ。彼は開拓初期の抗争、壊滅災害を、おそらくその混乱の真っただ中で経験し、生き抜いてきた原大陸の若者だったんだと、唐突に思い知らされた心地です。
でも、殴られてもキレたりしないところとか、なんかいいですね。そういうので怒ると小物じみてしまいますし。いいものを見せてもらった。

クリーオウ

つええええええええ。お母さんつえええええええ。
施錠銃! おお、なんと感慨深い武器でしょう…。腕がなまったとか言いながらも数百メートル離れたマルカジットの頭を打ち抜くお母さんまじ最強の戦士。いや、冗談抜きに。その鋼の精神力にも。カーロッタすら感心しているように見えました。
「魔王のボディガード」って実はコメディ要素から生まれた尾ヒレのついた渾名なのかなと思ったりすることもあったんですが、戦いぶりを見ていると伊達ではないように思えます。
しかし、娘のピンチにも動揺を見せなかった彼女が、ライアンに動揺したのはちょっと意外でした。だって偽物だし。しかし、それほど深い傷なのだと改めて示された感じではあります。オーフェンさんは早く奥さんを抱きしめてあげてください。
それにしてもやはり全体的には、クリーオウの貫録が半端ないと思いました。

クレイリー

うわあああああああぎゃああああああああいやああああああああああ ←まじこれ。
なんすかこれ。なんなんすか、こんなことがあっていいんですか。
車椅子で校長室に突っ込んできて倒れてるの可愛いwとか思ってたら、これですよ。信じられない。は!? は!? はああああああああああ!??ってなりました。
いや、これは、さすがクレイリーというべきなんでしょう。彼の信念というか、忠誠心の凄まじさよ…そしてその忠誠は魔術士全体に捧げられていたんだと、やっと分かりました。なにが彼をあそこまで忠実な戦士として動かすのか、それはちょっと気になっていたんです。おべっか屋と言われながらも、いざ戦いとなると手足を失ってでも任務を果たそうとする、その敬服してしまうような忠誠心はどこから、と。
オーフェンが魔術士社会を守るために騎士団を設立し、学校を運営し、そして今回の混乱では大統領邸に魔術士の地位回復を約束させた…そんなオーフェンだったから、クレイリーは魔術戦士として命を掛けて戦ってきたのかなあ、と。市議会と仲良くやっていたのも、そうしなければ魔術士社会を維持的ないと分かっていたからなんでしょう。戦士として戦うだけでは足りない。実際にそのおかげで、オーフェン逮捕後も魔術学校は市議会に乗っ取られずにいたわけですし。
この最終決戦で、オーフェンは魔術士社会を案じながらも、開拓村をも守ろうとした。もちろんそれだけなら問題はなかったのでしょうが、開拓村を守ることによって生じる損害が大きくなりすぎた。オーフェン本人も認めていましたが、戦いが厳し過ぎて、損害が生じることが当たり前だと思ってしまったということです。損害が出るとしても、魔術士を優先するべきだったんです。少なくともクレイリーやほかの魔術戦士にとっては。だってオーフェンは原大陸の魔術士の長なんですから。それをしないのは、まさに魔術士社会にとっては反逆者でしかない。
これは、このクレイリーの裏切りは仕方ない、と思うんです。むしろオーフェンのほうが魔術士達を裏切ったとも言える。そう思うんだけど、やっぱりつらい…。つらいです。魔王術士としても戦士としても校長補佐としても信頼していた部下に裏切られるとは。いや、大事なことを忘れていたオーフェンにとっては、クレイリーが魔術士のことを考えてくれていて良かったとも思えるのかもしれませんが。魔術戦士がみな死刑っていうのはさすがに困りますし。

この決別がつらいながらも、仕方ないと納得できるのがせめてもの救いです。クレイリーの両手足もいちおう復活しましたし。
しかし、オーフェンを逃がしてくれるあたりに、やっぱりこれまでの20年に多大な恩を感じているのも確かなんだろうなあと思います。要はクレイリーが裏切りを決意するまでのオーフェンは、クレイリーが命を掛けるに値すると思えるだけの働きをしていたということでしょうし。
どう方便を口にしようと、恩人を逃がす、その答えを出すのは情の部分だってことですね。

まあ、お互い年を取って権力とは無縁の隠居生活になったころにでも、談笑して欲しいものです。年も近いみたいですし。クレイリーの忠誠心を考えるとあまり長生きしそうにも思えないのがつらいところですが。

マジク

ブルータス、お前もか。
云われてみれば、そりゃそうか。魔王術の代償が魔術になるくらい、魔術士でしかないマジクが、魔術士よりほかを優先したオーフェンに従うわけないですね。魔術士社会にクレイリーのような忠誠心はなさそうですが、死に場所もくれないんじゃね。
クレイリーが校長席にいるのをしきりに嫌がっていたのは、実際にクレイリーが騎士団のトップとなることが実現するそのときは、自分もオーフェンの配下から抜けるってのが分かってたからですかね。開拓村のことでごにょごにょ言っていたのもそのためか…、いや、これはオーフェンへの忠告というよりは、本心として開拓村への配慮など必要ないと思ってそう。
実際、オーフェンを裏切ったこと自体にはあまり感慨はなさそうでしたね。本当にマジクの心は死んでるんだなあと思いました。
魔王討伐にマジクがいたのは、(それができる技量の戦士として選ばれたというのもあるんでしょうが)カーロッタと戦えない、仇を討つ相手が得られない代わりに、オーフェンを殺すつもりだったんでしょうか。代わりの死に場所、というか。
ただ、お師様という言葉でその気がなくなったくらいにはオーフェンへの気持ちは残ってたようです。笑ってお別れできたのが救いですかね。

カーロッタ

やってくれた。
女神降臨が目的なら、彼女が否定しているクオと同じだよな…と思いついて以来、女神降臨が目的じゃなさそうだとは思っていましたが。
彼女の約束は、必ず破滅が訪れるということ。それが世界の正しい在り方。しかし、このまま魔王術と巨人化が進んでいけば、神人種族すら超える、すでに超えつつある。これでは破滅を免れ得る――約束を違えてしまう、ということですかね。
聖域でのオーフェンの答えと似てますね。破滅は必ず来る、世界はそういうふうに出来ている。それを避けようとするのは死と同じ。カーロッタの「永遠に生きるつもり?」という台詞は、かつてオーフェンが玄室の始祖魔術士に対して思ったことと同じではないでしょうか。
カーロッタが今回やったことは、様々な状況を読み、それらを実にうまく利用して、20年に渡って築かれてきた原大陸の社会を徹底的に、回復にかなり時間を要するまで破壊したことです。オーフェンがキエサルヒマの結界を破ったように。
そして、ベイジットなら大丈夫だと彼女は考えたから、委ねた。託すとは違う言葉を使ったのが意味深でした。ラストも合わせて、20年前に託されたオーフェンのように重荷を背負わされて苦しむ人間は今回はいないんだな、と感じました。カーロッタが歪みは自分が引き受けると言ったのが、そういうことかな、と思いました。アザリーや領主はオーフェンに犠牲を払って戦えと言ったけど、カーロッタはそうは言いませんでした。(もちろんカーロッタは確実な破滅を信じているという違いはあるんですが)

オーフェンに別れを告げるシーンがすごく切なかったです。ああ、本当に、本当に二人とも長い旅をしてきたんだな……。
ベイジットが、カーロッタは鋏ではなくオーフェンを取りこむつもりだったと言ったのがドキっとしました。オーフェンが鋏と同等の存在だという事実にドキリとしたのももちろんですが。それ以上に、そうしていたら、オーフェンも一緒だったら、カーロッタは寂しくなかったのかな、と考えてしまいました。オーフェンに別れを告げたとき、代替となる鋏があったからオーフェンを見送ることができたわけですが、彼女がオーフェンを連れて行かずに済んだことをどう感じていたのか、考えようとすると涙が出てきます。
オーフェンは出発地点に戻る…、カーロッタは旅を終える。「笑わないわ……だって、ただひとりの友達とのお別れですもの」その言葉を何度も読み返してしまいます。
お互いをはぐれ者だと理解し合っていたオーフェンとカーロッタの間には、確かに友情があったんだなと思いました。

オーフェン

死んだかと思ったじゃん ばかあ!!
「もう魔王ではなくなったその男の最期を看取るのは」という文が目に入ったときは、本当に心臓がきゅっとなって、視界の文章がぐるりと回ってズレて重なり合って読めなくなるという状態になりました。いったん本を置いて、ちょっと気を落ち着けてから、また続きを読みました。あー、もう、無事でよかった…。

前半あまりにも動きがなくて、少しつまらなくも思っていたんですが(いや、倒れたクレイリーを引き起こして上げたりとか可愛かったですが)、まさかのクレイリーの裏切りで大どんでん返し。すべての部下を失い、ひとりで敗走……まさかこんなオーフェンを最終巻で見ることになるとは。
己の聖域とする墓場に戻る姿は、なるほど、原大陸におけるアイルマンカーはオーフェンだったというわけです。スウェーデンボリーの「自分が作った世界からは逃れられない」という言葉に、オーフェンが心当たりがあると言っていたのもこのためでしょう。これは「原大陸開戦」以降しばしば見られていた要素です。オーフェンがいなければ騎士団はうまく回らない、キルスタンウッズや大統領邸とも連絡を取り合えるオーフェンの存在がいかに大きかったか…。
おそらくこの20年間ずっとそうだったのでしょう。オーフェンは20年前にキエサルヒマの秩序を破壊し、自分が新たに作った原大陸の秩序から逃げられない状態になっていたのです。オーフェンは魔王術を使う騎士団を組織し、カーロッタを始め様々な勢力と対峙することで、原大陸の均衡を保ってきた…それは結界でキエサルヒマを守っていたアイルマンカー達と同じだったということです。
「こんな世界は滅べばいい」この言葉の本心も見えてきます。オーフェンは分かっていたのでしょう。
ただ、すべての力を奪われ、再び出発点に戻る彼は、もはや玄室のアイルマンカーではなく、ただのはぐれ魔術士に戻ったわけです。だからこそ、カーロッタは自分が連れていくのは鋏でいいと思ったのかもしれません。…カーロッタ、すごいなあ…。

最後に肩の荷が下りた様子でのんびりしているオーフェンに安堵しました。作業を堂々とサボってて可愛いお父さんですね。
最後のオーフェンは、例えを探せば、十三使徒を失って牙の塔で隠居状態のプルートーと同じ状態ってところでしょうか。なんの権威もない使い走り程度にしかならない魔術士だけど、戦士としての彼を覚えている魔術士達はみな彼を怖がっている…そんな存在。

しかし、原大陸はまたいつか混乱に陥るでしょうし、はぐれ魔術士に戻った以上、オーフェンのはぐれ旅も続くんだろうということも考えてしまうわけですが。ただ、オーフェン自身は旅が終わったような気がすると感じているようなので、案外ほんとに隠居できてしまうのかもしれません。さて…。
なにはともあれ、今はどこの組織も大きいことは出来ない状態になってますし、しばらくは平穏を味わってもらいたいものです。

スウェーデンボリー

ひぃやああああああああああああああああああああ!
うわああああああ……あああ……
お察しください。

いえ、薄々は予感してました。偽造天人が作った結界はもうないから女神はこない、ならば、なんの用があってローグタウンに? ローグタウンにはなにがある? 魔王が閉じ込められた世界図塔がある――その想像を繰り返しては、絶望を味わっておりました。
なので、やっぱりね…というところなんですが、いざ本当に逃れようもなく、はっきりと明記されてしまうと、やはりしんどいです。
かつてカーロッタが「あなたがわたしの側でも良くない?」と言ったとき、ボリーさんは苦笑を返して濁していたので、彼はカーロッタの考えは分かっていたように思えます。ただ、その案は嫌だ、ということだったのかもしれません、彼の考えは分かりませんが。しかしまあ、カーロッタが「捕らえておいてくれた」と表現していたので、やっぱり本意ではなかったんだろうなと思います。
死にたいと言っていたことを考えれば、これはこれでありなんじゃないかと慰めてやるくらいしか…。

いやあ、ボリーさん、好きでした。いえ、過去形ではなく今も好きですが。
本当に憐れな魔王だったなあと、これまた涙が出てきます。世界を創造した存在が、力を奪われて貶められて、それでも怒り狂うこともなく、ゆったり構えていて。創造主として調停者として、世界を守るために1000年を孤独に過ごした魔王。
結局、彼の望みは叶わなかったんだなあと思います。始祖魔術士達が常世界法則を破ったときに、彼の世界は破壊されていたのだと改めて考えさせられます。

オーフェンのそばに20年近くいただけあって、クレイリーに裏切られたオーフェンが思い浮かべたのも、この魔王のことでした。憎くもあったし、親しくもあった魔王。
オーフェンは今回の戦いで、カーロッタとスウェーデンボリーという友人二人を失ったんだと、悲しくなりました。

あとは、番外編で校長と仲睦まじい秘書の姿が拝めるといいなあと祈るばかりです。

魔術士とは

さて、魔王術と巨人化による致命的な問題はなくなり、オーフェンも原大陸の魔王という地位から降りることができたわけですが。
しかし、これで良かったのかなあ?と思う部分もあります。特に魔術士社会について。魔術士が魔術士ではない職に当たり前に就ける社会、という理想のようなものが、しばしば語られていたのですが…。この結末では、魔術士はどこまでいっても魔術士でしかないということが示されたように思えます。魔術という異能を持った戦士としての魔術士、魔術という労働力を持った魔術士。そして、またいつか戦争になれば、その力を振るうことになる。魔術士として。
魔術はこの世界の宿業であるということが語られた以上、これはこの先もずっとつきまとう問題なのかもしれません。ドラゴン種族のように種全体が魔術士になっていれば、また話は違ったのかもしれませんが。
この点については、なんだかとてもやるせない感じが残ります。

もちろん、ラッツベインやエッジ、ラチェット、そしてベイジットがこれからどのような道を歩むのかは分かりません(ただ、その部分の展望も、具体的には語られることはなく終わってしまったのですが。いや、新天地だからなんでも出来るだろうと、オーフェンが少なからず語っていましたね)。

オーフェンは長い旅が終わったような気がすると言っていますし、オーフェンを軸としたこの物語はこれでおしまいというところでしょうか。本人も自分の代ですべての問題が片づくとは思ってないと言っていましたし。

これから先、長い歴史の中でなにか変わっていくこともあるのかもしれません。

【感想】小説「魔術士オーフェンはぐれ旅 女神未来(上)」

魔術士オーフェンはぐれ旅 女神未来(上)【ドラマCD付 初回限定版】

以下の感想にはネタバレ、考察を含みます。

今回は通常版と限定版の同時発売。自分が限定版を買うにしても、やはりこのほうがいいなあと思います。
表紙イラスト、オーロラサークルがカッコ良過ぎる…! 文字通りのオーロラの輝き、円弧を描く鍔に文様入りの握り、そして黒い刀身…これをデザインしたのが魔王スウェーデンボリーなのかと考えると滾ります。良いですね。

いまさらですが、登場人物紹介はもっと掲載人物を増やしてもよいのではないかと思いました。全員がイラスト付きでなくてもいいでしょうし。勢力図というにしても、前巻で破れたリベレータなどがすでに省かれているのが惜しい気がします。

いつの間にやらオーフェンは校長職に復職したようです。今回のふたつの壊滅災害に対処する、という大統領邸との約束は果たされたからでしょうか。
「紐付き」については、これまでは魔術学校は市議会に監視されていたわけですが、それが大統領邸に変わったということでしょうか。市議会の監視は受け入れないと宣言してありますし。

市長抹殺を進言するエドに対し、オーフェンは大統領邸の態度やカーロッタさえ始末すれば収まりがつくことを挙げ、意見を退けます。前巻での喧嘩別れの最後も考え直してほしいという訴えかけでしたし、どうもまだ市長のことを見捨てられないようです。
お互い市議会と騎士団という立場にあり、協力したり妥協したり敵対したりしながら、苦汁を嘗めることもあった二十余年かとは思いますが、それでも切り捨て難いものがあるのだと思います。オーフェンにとってそのひとつが「キエサルヒマの終端」でサルアと語ったことなのかなと思います。

市長を気にする一方で、オーフェンは開拓村が都市の奴隷となることも回避したい様子。そこまで背負うのかと呆れられますが、オーフェンは“開拓村のことまで考えつかないようでは、とっくに見限られていただろう”と答えます。魔術士として権威を持ち、ひとりで大陸を征服できる力があるからこそ、彼は魔術士以外にも配慮しなければなりません。彼が魔術士の利権のみを考えるようでは、それ以外の層にとっては危険な存在でしょう。オーフェンは己が何者も支配しない姿勢を示し続けなければなりません。
ただ、ローグタウンにある開拓者の墓のことを思い出すと、オーフェンが開拓村のことを気にかけるのは、それだけではないようにも思えます。開拓村寄りのキルスタンウッズがオーフェンの協力要請に答えたのも、理由のひとつには彼が政治的な意味合い以上に開拓村のことを考えているからなのかもしれません。

もうひとつ。「鋏の託宣」において、市長が“市が壊滅し、復旧しようにも魔術士からの協力を得られず失職となる”状況だということは分かったのですが、ドロシーが彼を市長職から退けたい理由までは分かっていませんでした。
その理由が、先述の「オーフェンは開拓村のことも考えなければいけない」、これと同じことなのかなと思いました。もはやサルアにとっては市と市民が第一で、開拓村など他のことを考えられなくなっているのかな、と(そういえば、「鋏の託宣」では「革命闘士打倒を掲げて開拓地を占領する」とか言ってましたね…)。
市民を第一に考えてくれる市長だからこそ、市民はついていくのかもしれませんが。

はぐれ者が必要だという話で、オーフェンが「俺が動きたいところだったが、この部屋にもどされちまった」と言いますが、この人ははぐれることが出来れば自分でやるつもりだったんだと改めて怖くなりました。「と、魔王は考える」時点で、カーロッタと刺し違えるつもりではないかと周囲に懸念されるほどの兆しはあったわけですが。
今のオーフェンがはぐれ者の暗殺者としてことを片付けるのは、超人が世界を救うことに近いような気もします。それでも英雄になれるわけではないし、なるつもりもないようですが。

エッジがマヨールをはぐれの暗殺者に仕立てることに反発するのは、数少ない友人だからだというだけではないだろうと思います。彼女はその結果として魔王となった父親の孤独を感じていたわけですから。
「許せない」と断じるエッジに、そういえば、オーフェンが当事者だったとき、そんなふうに怒ってくれる人はいなかったな…と、切ないような、嬉しいような気持ちになりました(当時のクリーオウがあの状態でなければ彼女が怒っていたのかもしれませんが)。

そして任命を受けたエッジはラチェット達の救出に乗り出すのですが。
彼女は魔王術を使えないため、ヴァンパイアを相手にすることが本分の魔術戦士としては、いまいち実績を積めていません。そのせいか、だいぶ自己評価が下がってきているようです。このへんはブランクを経て、自己評価を下げていたかつてのオーフェンを彷彿とさせます(読み手としてはにやにやしてしまいまうのですが、エッジはそんなところが似ても嬉しくないでしょうね…)。
ただ、ラッツベインが魔王術を使うにはエッジの制御力による補助が必要ですし、マヨールの空間支配があれほど飛躍したのは「約束の地で」にてエッジが彼の構成を指摘したからでもあると思います。実際、エッジの魔術制御の能力は強いだけでなく自在だと評価されていました(制御が優れているという点も父親似ですね。オーフェンも火力については突出していたわけではないですし)。
力不足を噛みしめながらも、前進しようとするエッジは以前よりいくらか柔軟になったように感じます。彼女は他者に見せるツンケンとした姿勢とは裏腹に、優しい性格をしていて、健気に頑張ろうとしているのもよく伝わってくるので、報われてほしいと応援したくなります。

マルカジットの登場。書影が発表されたときには誰なんだと困惑したものでしたが。まさかの合成人間。読む前は女神かとも思っていましたが、本人の言葉を疑うにしても、女神だとしたらラチェットの態度はもっと違うものになりそうです。
それにしても、このマルカジットの登場はあまりに唐突で、上滑るような感覚がありました。登場人物にとって唐突なのはともかくとして、読者にとっても唐突過ぎるというか。それはそれでもいいんですが、どうもこの展開についていけない感があるというか。その現出の都合の良さについて、マルカジット本人が言及するところが、妙に言い訳がましいというか。うーん、うまく説明できません…。

マルカジットはなかなか話が通じず、ストレスを感じさせるキャラクターです。それを狙っていることを踏まえたうえで、苦手なタイプです。
そして、マルカジットの父親発言についにキレたエッジ。相手の攻撃を無視して、痛烈な一撃を打ち込む。師である父が教えたことなのか、自身で辿り着いたことなのか…。決戦能力を一端でも受け継いだ証拠を見たような気がして、ぐっときました。苛立たされていたマルカジットに一矢報いることができて、すかっとしたのもあります。
まあ、別のピンチに陥ってしまいましたが。後の話によればまだ無事なようです。出立するエッジにベイジットが言ったように、彼女がエッジを助けることになるのでしょうか。

カーロッタの来訪。今回どうしても惜しい気がしてならない場面です。「原大陸開戦」から引っ張ってきたオーフェンとカーロッタの対面なのに、いまいち盛り上がりに欠けました。当事者ではないベイジット視点になっているからかと思います。ベイジットが重要な場面を目撃するというのは大事なことなのかもしれませんが、文章は大仰なわりにいまいち迫ってきませんでした。
個人的にはオーフェン視点で読みたかったです。突然の来訪に対する緊迫、シマスに変化がないことへの驚き、焦り、疑惑。そのあたりを押し出した方が、カーロッタによるオーフェンの敗北宣言もよりひやりとしそうで、そういうのを読みたかったなあと思いました。
カーロッタ自身は重要な人物ではないと言いますが、ここまでの流れでは彼女が鍵を握っていたわけですし。「原大陸開戦」ラストでは、オーフェンはカーロッタに怒りを持っていましたから。どうも肩透かし感のある場面になったと感じました。

紛糾したらしい会議を省き、そのまま説明パートに飛んでしまうのもやや退屈です。市長とカーロッタの対面という怖い場面もあったはずなのですが…。
また、ここでクリーオウが出てきたことには違和感がありました。今まで口出しせずに傍観している節があったのに、なぜなんだろうと思いました。本文では「珍しい」だけで流されてしまいましたが。いやもう省いた会議の内容をオーフェンに説明させるために出てきたような気がして、そんな扱いでいいんだろうかと思ったのが正直なところです。
ヴァンパイアはコントロールについては、これまでの話からもオーフェンの言うとおりなのでしょう。あとはカーロッタのトリックを見破る必要があるだけです。
しかし、リベレータの結界による女神到来は確かに回避できたものの、到来の可能性がなくなったわけではないと思うのですが、それでも騎士団は無用な存在になったのでしょうか。
また、カーロッタは市長夫人殺害や市長殺害未遂の首謀者なんですが、すんなり帰して良かったのか…。あれだけの面子を揃えての会議ですから、そのあたりの言及もあったのかもしれませんが、とりあえずこちらに開示された話からはよく分かりませんでした。あとで判明するのかもしれないし、まだ私が読み取れていないだけなのかもしれません。

ところで今回のマジク。ほとんど校長と会話しているだけで、なんでなにもしてないんだろう…と、これもまた変な感じでした。もちろん描写されてない部分もあるのでしょうが、(魔術能力が失われているとはいえ)ほかにやること・できることは山積みなんじゃないかと思ってしまいました。
会話の内容も今さらのように感じました。ゴールへの遠さ、状況の複雑さ、そんな話の繰り返しで。校長と一緒になってなにをぐずぐずお喋りしてるんだろうと思いました。目先のことだけでなく、もっと遠くのことも考えておきたいと言う校長がぐずぐずしているのはまだしも。
まだそんな無垢が通るかという返しは、エッジみたいな若者を送り出したあとにはあまり言ってほしくなかったです。そのあたりはもっと前の段階で意識しておいてほしかったように思いました。

マヨールとイシリーンのラブくさ。もう君たちがスィートハート姓を継いだらいいんじゃないかと思いました。

マヨール達が安全を求めた先、キルスタンウッズの戦線が語られます。
ケリー、すごくいいキャラクターですね。どうやらキース本人ではなかったようですが、彼の弟子である可能性が出てきて、これはこれでテンション上がりました。
ケリーはデレのないツンクール系というか。師のことを敬ってはいるようですが、泣きながら地団駄を踏む師を慰めることはしない気がします。そもそも地団駄を踏ませたのがケリーでしょうし。…なんだか可愛い師弟ですね。

強力な魔術士であり、拳銃も使いこなすケリー。キルスタンウッズはならず者の集まり。相手の方が格上だろうと、奇襲を掛け、なりふり構わず勝ちを掴もうとします。それこそ負ければ終わり、開拓村の者を守れませんから、その様からも彼らの革命闘士との長年の戦いを感じさせます。
黒薔薇の館は村はずれにあり、さらに館の庭にはギャングの墓――ローグタウンの村はずれに居を構え、開拓者の墓を見守るオーフェンを彷彿とさせます。ボニーが意識したことなのか、偶然なのか、いずれにせよ意味があることのように思えます。
ギャングと恐れられるキルスタンウッズは、ヴァンパイア抹殺という裏仕事を続けていた騎士団と似ている部分もあるのかもしれません(大部分は「都市に引きこもった魔術士」とケリーに切り捨てられてしまいましたが)。

ボニーの「ちょっと世の中が混乱しそうだからって、大抵の人には関係ないのにね」という台詞は当事者意識が薄いようにも思えますが、村人を受け入れて自分の組織を全滅させてまで守り抜いてるあたり、闘争に非戦闘員が巻き込まれることについては思うところがあるのかもしれません。キルスタンウッズはどんな出自の者も受け入れる組織ですし。
愛の村の人達を少し思い出しました。開拓村はその厳しい環境からか、人との繋がりや縁が大事にされているように感じました。
ボニーの態度はふわふわしていて真意は掴めませんが、彼女に仕えているケリーは、革命闘士との長年の戦いを「小競り合い」と称したマヨールに侮蔑を向けます。キルスタンウッズは本当に開拓村と近しい存在なのだと思えました。

魔王自身はオーロラサークルを使うことが出来ないという話は、スウェーデンボリーが魔王術は盗めないことと同じ話かと思います。
それにしても、魔王ですら消滅させ得るとは、彼はなぜそんな危険なものを作ったのか…。いや、結界に阻まれた状態で、召還機の動作を利用して生成できるのはあれしかなかったということなのでしょうが。ケシオンの復讐心に対して、「それくらいはいいだろう」という軽いノリで出来たものがそれなのかと思うと、改めて魔王ってなに考えてるのか分からないな…としみじみした気持ちになりました。

マルカジットが「自分が代わりにやってあげる」と言いながら、マヨール当人を連れていこうとするのはなぜか。単独で乗り込むのではいけないのか。このあたりはオーフェンを連れて行こうとする最接近領の領主アルマゲストを思い出しました。
アルマゲストは合成人間について「必要とあらば死ねる」便利な存在だと言いました。いま思えばこれは「必要とあらば殺す者」とセットの存在なのでしょうか。対、というのはまた違うような気がするのですが…。
必要とあらば死ねる存在だけでは、打ち勝っても前に進むことはできません。必要な犠牲を払って前に進むこと、それができる者もいなければならないのです。合成人間はそういった相手を探しているのでしょうか。
マルカジットの言う「もうひとりのはぐれ者」はベイジットだろうと思っています。オーフェンは三年前にマヨールに目を付け、そして「鋏の託宣」ではベイジットにも目を向けました。マルカジットのはぐれ者選出はオーフェンのあとを辿っているような気がしました。

そして黒薔薇館の襲撃。ケリーの超然とした戦いぶりはいっそ気持ちよいくらいでした。迷いのなさが強さに繋がる、その体現のようです。
しかし、これでキルスタンウッズは終わりだという彼の言葉には切なくもなります。これから開拓村の状況が厳しくなりかねない情勢で、長く開拓村とともにあったキルスタンウッズには踏ん張ってもらいたいところです。
ボニーの泣いて許されることではないという態度に、部下に特攻を命じる立場の、つまり力を使う者の、責任が見えるような気がしました。
結果として館にいた楽団員は全滅しますが、戦力の本体はラポワント市やほかの開拓村に出向いていることが書かれています。なんとか立て直していけるのではないかと期待を持ってしまいます。ただ、その復旧を率いる者としてケリーがいないことが非常に残念でならないですが。

黒薔薇館での戦いの終息後、村人たちが墓地を直そうとしている場面が描かれています。ほんの一文ですが、ひどく胸が締め付けられました。館が崩れ、別の場所に避難する必要もあるなかで、決して急務だとは思えない作業です。それを今、なんとか直そうとしている。都市の人間達にギャングと蔑まれていようと、開拓村の人たちにとってキルスタンウッズがどんな存在だったのか、この一文だけで痛いほどに伝わってきます。これまでのことはもちろん、今回の襲撃で村人達を守るために犠牲となった人たちを弔うためにも、墓地を直す必要があるのだと思われます。
ケリーが引き受けた馬車の修理が、都市部や近隣の村から離れた開拓村にとって、どれほどの意味があったのか。ここに言い知れない絆を感じて、どうしようもなく悲しくなりました。
新章に登場する名もない人々については、恐怖や不安、怒りの描写が多かったように思います。だからこそ、なおさらこの墓地を直す場面の悲しみが大切なもののように感じられました。

黒薔薇館を襲撃したヴァンパイアはカーロッタの配下ではありませんでした。ボニーの首を持って行けば、ローグタウンに入れてもらえるのではないかと考えた連中だったのです。そんなことのために楽団員が全滅したのかと思うと、怒りが湧いてくるわけですが…。
ただ、こうして暴走するヴァンパイアがいる、制御下に置けないヴァンパイアがいるという点は、ヴァンパイアのコントロールが完全なものではない証拠になるかと思います。この情報を持ち帰るのはエドですから、これで騎士団の動きを阻害するものがひとつでもなくなればいいなと思いました。

最後に。
今回はキルスタンウッズ関係が熱かったです。いかに面倒くさい状況なのかという説明の繰り返しや、マルカジットのうざい感など、すっきりしない停滞感の続いた前半に対して、衝撃ぜんぶ持っていかれるくらいの熱でした。懐かしい呪文も、ヴァンパイアの理不尽さも、キルスタンウッズと開拓村の絆も、読んでいて揺さぶられる思いでした。とくに墓のくだりはつらかったです。
ページ数にしても既刊と比べて少ない今回でしたが、内容も下拵えといった感じでした。疑問が解消しないままの事柄もあり、正直すっきりしない感もあるのですが、下巻に期待しておくところかと思います。
都合の良すぎる存在の現出、「精算」という言葉の不穏さ、複雑になりすぎた世界、どうなることやら不安ばかりが沸いてきますが、一方で新たな動きを見せている次世代組に期待したいです。もちろん、元祖主人公のオーフェンにも。

【おまけ】
そういえば、出番のなかった魔王スウェーデンボリーは今頃なにをしてるんでしょうか…。単独では世界図塔から出られないかと思いますが。
魔王術で封じることのできない魔王はこのようにして封じられ、彼の件はこれでおしまいってところなのでしょうか。このまま最後まで出てこない展開もありそうです。

【感想】小説「魔術士オーフェンはぐれ旅 鋏の託宣」

魔術士オーフェンはぐれ旅 鋏の託宣【初回限定版】

以下の感想にはネタバレ、考察を含みます。

通常版が羨ましくて仕方ない今回の表紙。アニメイトで購入したので、オーフェンがいる替えカバーもゲッできたのが救いではありますが。限定版の特典に通常版の表紙を追加して欲しいくらいです。小冊子とそれだけでいいんだけどな…と本音。
今回、値の張る限定版が通常版より半月以上はやく出るのは、さすがにちょっとうんざりしたのが正直なところです。限定版を出すなとは言いません。ただ、「続きが気になるから仕方なく限定版…」と無理して買う人も少なくないだろうと思うと、どうにかならないものかな、と。純粋に作品を楽しみたいのに、いらぬことでテンション下げられてもやもやします。
まあ、どんな理由があるかもわからないので、苦言はこれくらいで。

表紙、不敵な笑みを浮かべるオーフェンがカッコイイです。騎士団の長として、学校長として、威厳を保っているときにはできそうにない顔です。「原大陸開戦」小冊子のラフにも、鋭い笑顔のオーフェンの側には「今はもう こういう表情は戦闘中でも滅多にしない気がします」と書かれていますし。しかし、前巻「魔術学校攻防」の口絵もそうでしたが、こういった表情はとてもオーフェンらしくて、心躍ってしまいます。はぐれ者に戻ってオーフェンらしさが出てきたのかな、と。戦うオーフェンが好きだな、と改めて思いました。

本編はいきなり大敵カーロッタの登場で、なん…だと…っていうか、シマス戦じゃない、だと…ってなりました。マジクはのらりくらりとしつつもやる時はやる枯れてる系かと思っていましたが、すっかり荒んでる系でした。サファイアの名前が出てきたりして、三部が気になってしまいます。
カーロッタは相変わらずの余裕と得体の知れない不気味さで、やはり強敵にはこうあってほしいという感じでした。剣腕も衰えていないようですが、あんな人でも日常訓練は欠かさないのだろうか…。
カーロッタの腕に関しては、「約束の地」であった「ヴァンパイア化した腕を切り落として」というくだりで「ヴァンパイア化ってその部分を切り落とせば進行が止まるものなのか…」とやや違和感を覚えていたので、やっぱり止まらないものなのか?と再び首を傾げているしだいです。
かつてヴァンパイア化した際にはカーロッタは「殺してと頼んだ」とあり、一度は諦めたのであろう彼女が再び女神降臨を迎えようと思うに至った経緯が気になります。なにか啓示めいたものでも受けたのでしょうか。
また、そのとき彼女を仕留めていたら、今どうなっていたのだろうか…とも思考えます。ドロシーのいうとおり、《くだらない代わり》が出てくるのでしょうし、オーフェンの言う《理想的な首領》を失うことにもなっていたのでしょう。カーロッタの後釜が、例えばシマスみたいなタイプではシャレになりません。しかし、逆に言えば、あっという間に全面抗争になって、原大陸の力は衰えるも、敵方を殲滅してケリがついていたのかな、とも思ってしまいます。

アイルマンカー結界の発生については、あらすじで分かっていたので、さほど驚きがなかったです。あらすじも避けておくべきであったか、惜しいことをしました…(ネタバレは平気な方なのですが、今回は本文から衝撃を受けたいと思っていました)。
アイルマンカー結界は神人種族でも1000年かかって破れなかった代物で、今さらながら始祖魔術士たちの力に慄きます。後半で、シスターネグリジェがひとりで召喚機を操作するパワーにも驚かされたのですが、しかし、それだけの力があっても神人種族を倒すことはできなかったんだな、と話の規模が大きすぎて目眩がしそうです。魔王術の、引いてはそれを用いて神人デグラジウスを封じたオーフェンの恐ろしさが垣間見えるようです。

つい数時間前までは逮捕されて軟禁状態だったのに、すっかり指揮官に戻っている元校長、元外部顧問のオーフェン。最高指揮官の地位を引き継いだはずのマジクも当然のように彼の指揮下に入ります。かつてマヨールが「有事の際には再びその立場に返り咲くだろう」と言っていましたが、よもや正当な立場ですらなくなっていようとは…あのときはこんな展開になるとは思ってもいませんでした。
前巻でも感じたことですが、エドとクレイリーが組織をまわそうとしていたときはあーだこーだぐだぐだ言っていた魔術戦士達が大人しいのが不思議なものです。いえ、エドがぐだぐだ言っていますが。短編「と、魔王は考える」でもオーフェンを説教していたのは彼でした。外部顧問にぐだぐだ言えるのは彼だけなのでしょうか。まあ、オーフェン相手だと下手に反論しても間髪入れずに否定されそうですが。
それにしても、みんなして『で、どうしたらいい?』ってのもない話ですよね…。これらのメンバーが判断力に劣るということはないのでしょうが、それはおそらく戦闘をする際の話で。団体や組織としての方向付け、方針を決める決断力はないのかもしれないと思いました。これまではオーフェンがすべてを決めて彼らを導いていた、やや強い言葉を使えば、オーフェンの独裁が強かったと言えるのかもしれません。神人種族をも封じる強力な魔術士であればこそ、アクが強い上に個人主義な魔術士が集う組織をまとめることもできたのかもしれません。
マジクも支配者向きではない無能な集まりだと認めていますし――彼のこの発言には、今回の戦いのあと、オーフェンは騎士団には残らないというマジクの見解が含まれています(すでに逮捕された人なので当たり前といえば当たり前なのですが、現場指揮を執っている現状を考えるとふしぎなものです)。
現状、オーフェン一人を失ってうまく機能しない騎士団を思うと、キエサルヒマ大陸魔術士同盟はその厳しい歴史から互助の精神によって成っていたそうですが、独立心の強い魔術士達をまとめていたのですから、やはり歴史があるだけそれなりの組織だったのかなと思えます。キエサルヒマにはヴァンパイアはいませんし、結界が崩壊するまでの近年は勢力も貴族連盟、教会、魔術士と拮抗していて、平穏に停滞していたおかげでもあるでしょうが。
原大陸はまだ歴史も浅く、諸々の問題があって落ち着くには時間がかかりそう――というか、今回の件でまた後退したのでしょうが。しかし、オーフェンがいなくなったからといって何もできないままではいられないでしょうし、いずれは魔術士同盟のような組織もできるのかもしれません。

ところで、マジクやエッジは騎士団には王様がいないと言っていましたが、拠り所としてはやはりオーフェンなのだろうと思います。騎士団や魔術学校が非魔術士からの監視や制限を受けながらも、支配されなかったのはひとえに魔王オーフェンの威光があったから。原大陸での魔術士達の地位を保つために、威厳を持って君臨し続けた彼の存在は、(とくに魔術戦士達には)大きかっただろうと思います。
シマス戦の敗北によって退場せざるを得ない状況ながら、あれこれあって矛先が逸れている状況ですが、果たしてすべてが終わった時、オーフェンの処遇がどうなるのか心配です。すべての権限をなくして引退なんてのは虫のいい話ですか。議員には「今後の自由はない」と言われていましたが。個人的にはゆっくり平穏な生活を送らせてあげたいと思ってしまいます。

「女房に頼んだらどうだ」と言ったら惚気られたでござる。新章でのクリーオウの出番は少ないですが、オーフェンの独白や会話にちらちら出てくるので、すっかり馴染んだ夫婦なんだなとしみじみさせられます。
隊長が言おうとした「そんな使い走りは」というのは「そんな使い走りはお前の懐刀くらいだろう」みたいな感じでしょうか? 噂をすれば影。ラッツベインとエッジに踏まれる隊長、かわいそう(笑)。踏まれたというより踏みにじられたのか…。

マジクの魔王術の代償は魔術能力。当然ながら使用した術の規模に応じて使えなくなる期間が変わるようですが。能力のどこまでを喪失するのかは書かれていません。魔術構成は見えるのか、編めるのか、魔力を注ぐことができないのか。構成が見えるのであれば戦闘での後方支援も望めそうですが、見えないのであれば、戦場に赴くのは厳しそうです。このままいくと、マジクは対カーロッタや対女神の最終決戦を戦場で迎えることはできないのでは…。大丈夫なんでしょうか。
そして、エドとクレイリーの代償はまだ明かされていません(本当なら第3部で明かされているのでしょうけど)。気になります。

キルスタンウッズ開拓団。ボニーの変わりようにびっくりしました。豊満な肉体に真っ赤なルージュですって? しかもブロンド…。ど、どういうことなの。そして、その背後に控えているあなたは誰ですか。――誰ですか。
しかし、ボニーの中身は、(とりあえず酩酊した状態では)昔とさほど変わりないようです。ちょっとほっとしたような、かえって心配になったような。サイアンにもぼんやりしてると言われていたので、素面でもあんなものなのかもしれません。楽団員の緊張はボニーというより執事に対して?
この執事、口調や雰囲気などにやや印象の違いはあるものの、キースだろうと思っています。だって、キャプテン・キースの像、真っ赤ですし。ケリーが登場するまではキースの本来の奇天烈さを物語る色かと思っていたのですが、今では「(彼の雄姿、悼むべき最期は)嘘だ。嘘っていうか、まあ、働きとしては本物だったんだが、なんというか……考えるのがあほらしいよな」というメッセージが聞こえてくるかのようです。真相を知っていそうなオーフェンや大統領邸、市長配下の派遣警察隊あたりの誰かであれば、「正しい権力の使い方」で像を赤くさせることも可能でしょう…。
「ボニーが『黒薔薇の暗黒王』と呼ばれているのは、きっと黒い服を着ているに違いない。喪服だ。彼女は今もかつて自身に仕えていた執事のことを悼んでいるのだ…」などと妄想していた時期が私にもあったんですけどね…。

マジクとコンスタンスの会話。これは今回、ショックを受けた場面のひとつです。「彼ほど反魔術士組織を憎んでいる者はいない。というより非魔術士をもだ。」というコンスタンス視点の地の文。びっくりしました。魔術士社会で育った魔術士と違って、オーフェンやマジクは非魔術士の中で暮らした経験がありますし、他の魔術士達より非魔術士に対して気安そうだな、理解がありそうだなと思っていただけに。
たしかにキエサルヒマ内戦で戦った相手は王都の騎士団で非魔術士ではありますが、マジクが守っていた相手も非魔術士のはずで。むしろカーロッタの言ったとおり、少年だったマジクを凄惨な戦場に送りだしたのは魔術士たる上司なのですが…。
マジクは魔術士にも失望したが、それ以上に非魔術士に失望したと言っていました。全力で戦っても守り切れなかったものはあったと思います。そんなときに酷い罵声でも浴びせられたのかな、と想像します。どうしようもなかったことを責め続けられれば、それも身を切っていない者に責められれば、いずれ苛立ちと怒りは募るかと思います。マジクの魔術の威力を考えれば、畏怖もされたでしょうし。無論、トトカンタを壁にして背後でじっとしていたタフレムの魔術士への怒りもあったかとは思いますが。
そして原大陸に逃れたマジクが見たのは、同じように責められるオーフェンだったのかもしれないと思いました。オーフェンはマジクより上手く処理できていそうですが(いろいろ察してくれる妻もいるし)。
原大陸でのオーフェンは魔術士の筆頭となり、彼らを守る役割も持っています。その配下についてしまえば、マジクのもとまで罵声はとんでこない。少なくとも公然の場ではオーフェンが矢面に立ってくれるはずです。そんな彼の娘の子守りを振られたマジクですから、彼女達に害なそうとする非魔術士に対する憎悪は濃度を増したのかも。そしてサファイアの件もあって…。
――と、妄想が先行してしまいました。妄想はさておき、枯れて温厚そうなマジクが誰よりも強い憎悪を持っているというのは、なかなかショックでした。フィンランディ姉妹との触れ合いで内戦の傷も少しは癒えたのかな…とか思っていただけに、そうではなかったのかと軽く殴られたような気分になりました。
オーフェンは旧友ハーティアのことをマジクに聞こうと思っても、聞けないんでしょうね…。

ドロシーとオーフェン。魔王術者にかかれば、外の警備なんてなんの意味もないことが改めて分かりました。ほいほい魔王術を使えるのはオーフェンくらいですが、それが必要なことなら魔術戦士は使うでしょうし。こうもあっさり要塞内部まで暗殺者に入ってこられるんじゃ、その力は危険視されて当然ですね。
そして、ドロシーが強い。格闘技能はもちろんですが、その精神力が半端ない。オーフェンにさえ覚悟が違うと言わしめる強さ。彼女がいたからこそ開拓計画を押し進めることができたんでしょうね。それにしてもまさか、オーフェンにデグラジウス封印を行わせたのが彼女だったとは…。とんでもないですね。不完全な魔王術なんてオーフェンが失敗して死ぬだけならともかく、周囲を巻き添えにするか、果ては世界を破滅させかねないものであっただろうに。いずれにしろデグラジウスを放っておけば原大陸は壊滅したのでしょうが、それ以上のものを賭けたように思えます…。なるほど、必要ならばすべてを賭けの対象にするというのは冗談でもないようです。今はもうそんな賭け事はできないとは言っていましたが。
彼女の語気は強く、危険な発言もありますが、開拓初期から巣食う病巣を始末しようという原大陸の未来を見据えた志向は清々しくもありました。

ヴィクトール、可愛かったです。前巻で見せたクールなビジネス顔はどこへやら。本当にサイアンのお兄ちゃん(従兄弟)だったんだなとしみじみしました。
オーフェン達がラッツベインがフラれたのフラれてないだの話をしていましたが、あれは告白したというわけではなく、傍目から見てヴィクトールがラッツベインに気がないと分かるような出来事でもあったのかなと思ってます。いくらなんでも実際に告白して玉砕してれば、フラれてないってのはお父さんが言うにしても無理があるでしょう。

マシューの魔王術。敵を埋める作業をしていましたが、あれは魔王術を仕組むには時間がかかってその間は無防備になるから、相手がしばらく仕掛けてこれないように埋めてたんですかね。それにしてもすごい呪文。あれもスウェーデンボリーの声で再生されているのかと思うと、なかなか笑えます。
あと彼の髪が白いのは術の代償である身体衰弱の影響でしょうか。今まで若くて白髪のキャラっていなかったと思うので、珍しいなと思ってたんですが。
しかし、なんだかんだ言って、危機度の高いヴァンパイアを一人で仕留めたのですから、彼もやはり相当な手練れです。

ベイジットの「こんなアタシにゃついていけねーか?」って聞くシーン、すごいなと思いました。教師にも学友にも媚びを売って、嘘をついていたベイジットが、素のまま自分と一緒に来るかと問えるようになるとは。やや考えたもののビィブがついていくと答えたのも、そんな彼女だから信用する気になれたということかもしれません。

ラッツベインとエッジによる市長の護衛。おお、ついに市長が登場――つかの間の喜びでしたが。
銃を手に入れてからラッツベインにどんどん入ってくる情報、「必要になるのは十四秒後」「必要になるのは目を閉じないこと」というのは、銃で撃った際にヴァンパイアが市長を庇う瞬間を見逃すなということでしょうが。ラッツベインが見たものはこのあとオーフェンに報告され、カーロッタ派の画策を見破ることになりました(だからと言ってなにもできませんでしたが)。
うーん、このあたりはラチェットの力が都合が良過ぎる気もしますが、白魔術士といえばそれだけでも強力な魔術士なので、これくらいはできるものなのかな…と、やや違和感を覚えつつも納得しました。姉達の同調術に干渉して制御していたのだから、相当な術者であることは違いないのですが。
オーフェンはラチェットの力に気づいてなかったのか、どうなんでしょう…。これまでは気づいてなかったとしても、結界の内側からいろいろな情報を送ってきたことで気づいたかもしれません。

ジェイコブズはうざいし変態だしでいろいろと度し難いです。しかし、隙はないし、拳銃も使い慣れている。そして本質も分かってるのかもしれません。世界が広すぎるから上手く支配できない、閉じた狭い世界で、頭の痛い問題を抱えることもなく安穏と過ごす。それは結界を縮小し、玄室に閉じこもろうとしたかつての始祖魔術士達と同じ選択なのでしょう。オーフェンにもそれが出来たはずですが、彼は結界を破壊し、世界に苦痛をもたらしました(そうしなければキエサルヒマはオーフェンだけを残してすべて滅んでいたのですが)。さすがに魔王と呼ばれるだけはあります。
個人が突出した力を持ち、それを使用して世界を支配することは許されないことだと言う人も少なくないかもしれません。ただ、ラクなことだろうと思います。ラクだと思うこと自体、人としての尊厳がどーだこーだ言われそうですが。しかし、許す許さないと言うのも虚しいですね。そう言えるのはオーフェンが支配していないからこそで。彼がその気になれば、誰が許さないと言っても意味はありません。

話は戻ってジェイコブズ。彼の役割はカーロッタの始末に失敗した時の作戦実行のようですが。その作戦は原大陸にアイルマンカー結界を張り、それを持って女神を捕えておくこと。そうすればキエサルヒマに残っている貴族共産会は助かります。その役割の見返りとして、結界内での支配者となることを許されている、と。スウェーデンボリーを召喚するつもりなのは貴族共産会は知っていたのでしょうか…スウェーデンボリーと彼だけの計画? いや、召喚機を持って行ったんだから知ってるか…。
それにしても、ジェイコブズは欲望に忠実というか、ひらたくいえば下品ですね。ネグリジェとかコールドフィッシュとか……こんなネタをオーフェンシリーズで、しかもこんなドシリアス、ドシビアなストーリー展開中に読むことになろうとは。
しかし、この下品さ、スウェーデンボリーは嫌悪していたようで、ちょっと笑えました。元盟友のオーフェンは粗暴であっても下品ではなかったですからね…。イザベラとマシューの言い合いなんて、スウェーデンボリーが聞いたらクラクラしそう。まあ、スウェーデンボリーがあの場面で嫌悪したのは単語そのものではなく、そんな単語を選んで名前にするセンスの方なのでしょうが。

サイアンとマヨールの会話。サイアン、賢いですね。聡いし賢い。世界図塔を見ながら考えていることも、材料力学めいたことですし。ラチェットの影響なのか、そもそも類友だったのか…。ふだんはラチェットの暴言とも言える、わけ分かんない言動に悩まされているようですが、それでも慣れもあるのか、ヒヨと同様、他者よりもずっと理解している域にはいそうです。
サイアンのような子と触れあうのもマヨールの成長に繋がるのでしょう。オーフェンはマヨールをキエサルヒマと原大陸とどちらを選ぶか殺し合いをした自分達の世代とは違うと評していました。が、それでもマヨールは魔術士社会で育った人間だったので、いろいろと足りない部分はあったかと思います。原大陸に渡り、魔王の娘や反魔術士勢力と触れ合ったり、ラチェトのような魔術士やサイアンと出会い、魔術士を疎んで離れた妹のことを考えることで、彼は成長したように思えます。

エッジと同調(使い魔症を発症)したラチェットとマヨールの戦闘、なかなか見ものでした。最近は敵が強大なせいで魔術の撃ち合いが多くて、肉弾戦はあまりなかったので。
オーフェンって他の格闘技能者と比べて細身で、スピードはあっても攻撃は軽そうな印象だったんですが、「動きは軽いくせに打撃は重い」と書かれていて、そうだったのか~と今さらながらオーフェンに感心してしまいました。無論オーフェンはエッジより強いでしょうし、マヨールは殴り合いではオーフェンには勝てそうにないですね…。
しかし、「未熟な頃に痛めつけて教育したんでしょ」というのは笑ってしまいました。マヨールは今はオーフェンのことどう思ってるんだろう。母(姉)に振り回されていただろう叔父さんにけっこうな親近感でも抱いているのでしょうか…。

オーフェンが魔術戦士と分かる正装で葬儀に赴く――淡々として静かな場面ですが、とんでもないシーンです。逮捕・拘束され裁判に掛けられておきながら、脱獄した人なのに、誰もそれを咎めない。前巻の戦いによって彼の脱獄は知れていたことなのでしょうが、だからと言って問題ないはずもなく。それだけ市民達の感情の矛先が他所に向かっているということなのでしょう。
オーフェンとクリーオウの挿絵。オーフェンの表情がつらいです。いかにもつらそうじゃないところがつらい。考え事に没頭している、葬儀の後のことを受け入れようともしているようで。胸を刺す感情に呑まれないよう、思考を埋め尽くす作業をしているようです。
この葬儀シーンはとにかく静かで、外では怒号も飛んでいるようですが、どこか遠い音のようです。聖堂内のしめやかな気配が漂っていて。その冷たい空気に落ち着かない気持ちになります。
クリーオウの「怖くなってるんじゃない?」という言葉を、オーフェンは否定します。「カーロッタにはその必要はない」と。そして手首をさすりながら、外に意識を向ける――この手首をさする仕草は、このときオーフェンの感情がささくれ立ったことを示しているようで、ぎくりとします。「そんなことは起こらない」と否定しつつ、起こった場合のことを考えているようで。
また、「カーロッタにはない」という言い回しは、他の者にはあるとも読め、オーフェンが意識を向けたのは外の市民達です。市長夫人殺害が起こるまでは、市民達の憎悪は魔術士達に向かっており、事実、学校も取り囲まれたわけで、クリーオウに危害が加えられるとしたら、むしろ市民達による可能性が高かったのではないかと思えます。
そんな彼らの掌を返したような、無責任な「カーロッタを殺してこい」という声。カーロッタの「無能な味方より敵が好き」という意見、オーフェンは同意するんじゃないかなとも思ってしまいます。そもそも市民は味方ではないですが。
《挿絵ですが、だいぶ老けこんでますね。疲労と心労の影響でしょうか。40代ってもう少し若そうな印象があり、オーフェンは体を鍛えてるし、公衆の面前にも出てた人だから、平均よりさらに若々しくても良いだろうと思っちゃうのですが…。しかし、この哀愁漂う横顔…、鼻梁の細い線、静かな目、たまらんです…すごく良いと思います(´¬`) 》

葬儀シーンの最後、オーフェンはサルアのことを「かつての友人」と表現します。サルアの言葉もどこか寒々しく聞こえ、知らない人間でも見るようなオーフェンの突き放した気配に、初めて読んだ時は冷やりとしました。
サルアとオーフェンの会話、非常に息苦しいです。怒り狂うサルアにオーフェンが淡々と応じる様子が、見ていて気まずくなります。市長の座から下ろすことが出来ていればあるいは、という後悔が痛々しい。
立場のまったく違う彼らが友人であったことが、そもそも不思議なことだったように今では思えます。考えれば、亀裂は最初からありました。外洋へ出るために開拓計画を利用したオーフェンと、キムラック民が生き延びるためにそれに乗ったサルア。お互いの利益が一致した計画ではありましたが、どちらにとっても気持ちのいい選択ではなかっただろうと思います。
教会で共闘した縁、ともに開拓初期を乗り越えた友情はあっても、その後もやはりお互いにとって利になる妥協点を探りながら進んできた二人だったかと思います。一方で、かつてオーフェンは自身の意志を固めるため、サルアに相談をしました。それほど、信頼の篤い相手でもあったはずです。「相反しそうなものの抱き合わせ」というラッツベインの評はなるほどと納得でした。
この世界は現実のように複雑でままならず、読んでいると、喧騒への苛立ち、意見が合わない不快感、圧力を掛けられることへの抵抗感、そういった覆すことのできないものへの不満を、すぐそばにあるもののように感じます。手に取ることのできそうな生々しい感情がそこにあり、それらを引き出す文章は本当にすごいと思います。
サルアの責めはオーフェンにはどうしようもなかった点に及びます。議会が反対派で上回っていたのに、なぜ成さなかったのかと責められるのは読み手としてもきついです。そう責めるなら、せめて議会を賛成多数にまとめるくらいのことはしてみせろよと思わず言い返したくもなりました(カーロッタを理想的な首領と見るオーフェンが賛成多数だからと言って動いたかはまた別の話ですが)。
ここまでオーフェンが反論しなかったのは己の不手際による罪悪感や、愛する妻を失った怒り(悲しみ)をせめて吐き出させてやろうという気持ちもあっただろうし、あるいはサルアが落ち着けばここで縁を切らずにすむという考えがあったのかもしれないと思いました。
けっきょく、ラポワント市民が生き延びるために避けられないこともあり、サルアが戦闘開始を撤回することはありませんでした。この点についてはやはりどうしようもない面があり、また頭が痛くなる部分でした。
オーフェンが最後に訴えたのは力を振るう危険性で、彼がサルアに諭された内容でした。これがすごくつらい。あのときサルアが答えてくれたからこそ、オーフェンは今でもひとりの個人のまま、オーフェンのままでいることができているのだと思います。それを諭してくれた相手が禁忌を犯すというのは苦痛でしょう。一線を踏み越えようとする彼を留めることのできない無力さを感じて、自分を責めたのではないかと想像すると、非常につらいです。

マジクに相談して父親を捜すことになったエッジは「母は怒っていたら父は姉のほうへ先に向かうだろう」と推測します。しかし、オーフェンがサルアと決別したことを思えば、実際はクリーオウのところに行ったかもしれないと思いました。ただ、今さら感傷を引きずる人か、むしろ普段通りに振る舞おうとするかもしれないと思うと、エッジの推測通りの行動をしたかもしれません。娘に見透かされちゃってる父親の図、ちょっと微笑ましいです。
微笑ましいと言えば、エッジがオーフェンと上手く念話できないのがすごく可愛いです。そのファザコンぶりを発揮して和ませてくれた「約束の地で」から3年、就職もして、父への尊敬は変わらずともそろそろ父離れもする頃かな……とか思ってたら、まだまだファザコンだったようです。そんなにお父さんが好きですか。可愛い。

ベイジットと合流して魔王スウェーデンボリーに会いに行くことになるわけですが。スウェーデンボリーに会いたくなくてうろうろしてるオーフェンが可愛いです。そんなに嫌いなのか(笑)。「かなり親しいのは間違いない。友人といってもいい。」と評する相手を、実際にはこれほど憎んでいるのだから面白い人だなと思います。この二人の関係もまた「相反しそうなものの抱き合わせ」のひとつなのだろうと思います。
地下二千メートル……マジクがカーロッタの潜伏地から転移してきた距離(強大化したヴァンパイアで数日かかる)を考えると、距離だけなら大したものではないように思えます。実際は地層という障害物で囲まれた二千メートル先に位置するわけで、これまたとんでもないところに魔王を埋めたものです。しかも空気もすぐに使い尽すような密室。わざわざそんなところに埋めたのかと、変な方向に感心してしまいます。
暗闇でのスウェーデンボリーは相変わらずでした。ベイジットへの誘い文句は、どストレートに甘々で、こ、こいつ…ってなりました。悪魔は人間を誘惑するために天使よりも美しいと言いますが、まさにそんな感じ。ベイジットにはあっさり断られてしまいましたが。「愛してくれ」と言いながら「君の拙い魔術でも」と言うのもどうなんだ。この魔王はけっきょく人間の気持ちを理解できてないのかなと感じた台詞でした。
この時点からスウェーデンボリーは「オーフェン」という名を口にします。これまではオーフェンのことは「盟友」と表現し、名を口にしたことはありませんでした。呼ぶときは「君」でしたし。ジェイコブズを新しい盟友としたからでしょうか。しかし、今回はオーフェン自身に呼びかけなかったので、オーフェンのことをなんと呼ぶのかは少し気になりました。スウェーデンボリーにとって、人の名前は区別をつける記号に過ぎず、「盟友」という呼び名の方が親しい証拠なのかなとも思いました。
光る花を生み出すシーン…すごくいいですね。とても綺麗で好きなシーンです。水仙ってところはやや皮肉ですが。この魔王はどこまで外の出来事を把握しているのか。
無音の闇に咲いた花が放つ仄かな光、その光に微笑む魔王の思うところは伺い知れません。「気が紛れる」という言葉どおりなら、不死とはいえ、人と同じ身体をしている魔王にとって、闇は退屈で苦痛なものだったのでしょうか。「優しい気持ちになるのは大事なことだ」という台詞は意味深です。エッジに感謝しながら目を閉じる瞬間まで。スウェーデンボリーがなにを思っていたのか、興味深いところです。
あとに控えた計画のことを考えれば、オーフェンとの別離の儀式だったのだろうかと思わなくもないです。このときには彼は巨人種族を見捨てるつもりでいたわけですから。最後の憐憫か、憎まれつつも二十年をともに過ごした旧友への情かな…と思うと、やや切なくなったりもします。
しかしまあ、肝心のオーフェンとの会話はそっけなかったんで、べつにそんなセンチメンタルな話じゃないんじゃない?とも思うわけですが。光を灯して、オーフェンのほうを見たわけでもないですしね…。それでも、心に残るシーンだったので、なにかしら深い意味が欲しいなと思ってしまいます。

オーフェンとベイジットの会話。闇よりもなお暗く描写されているオーフェンが印象的です。世界の破滅に身を馴染ませたはぐれ者。カーロッタと同じだと語ります。違う点は、カーロッタは破滅を招こうとし、オーフェンは破滅を遠ざけようとしているところでしょうか(オーフェンは内心では世界は滅べばいいと思っているようですが)。
破滅を遠ざけるにしても、世界は変わらざるを得ないというのがオーフェンの思うところなのでしょう。変化を拒絶することは死と同じことだと。破滅するまで世界をどう支えていくか、どう付き合っていくか、そんな感じなのかなと思います。めまぐるしい変化に疲れそうな世界だなとも思います。人が変わらない平穏を求めるのも仕方ないよな、と。
ベイジットにはまだ先の長い話だったろうと思いますが、彼女はオーフェンの話についてこれるだけの成長をしたんだなと思いました。そしてそれを誰かに伝えようとまで考えたことには驚かされもしました。兄の名前が出てきて温かい気持ちにもなりました。彼女はこのさき兄と会うことを拒んだりはしないのだなと安心しました。ビィブがいる今、ベイジットがキエサルヒマに帰ることはないだろうと思いますが…話し合うことができるのなら、大丈夫だろうと思えます。
最初に読んだとき、ここでベイジットは革命のことを考え直したのかと思ったのですが、べつにそうではないですね…。本当に必要かどうかはこれから考えていくことなのかもしれません。

オーフェンが後継者を育てなかったのは、あえてのことで、ひとりで世界を肩に負うような人間はもういらないと考えているんだろうと想像しています。超人は世界を救わないと考えていたオーフェンが現状、世界を支える存在になっていることは、なかなか皮肉なものです。オーフェン自身はひとりの人間であるよう、様々な圧力を甘んじて受けていますが。それでも魔王と呼ばれるほどの存在であることは確かです。
みなで支えられない世界なら破滅するのも仕方ない、オーフェンはそう考えているような気もして、やはり神ではなく、魔王なのだなと感じます。

イザベラの最期。これもショックを受けた出来事のひとつです。ただ、彼女の場合、聖域での戦いからずっと一人で怒っていたのかと思うと、彼女はやっと満足して、解放されるのかと安堵の気持ちもありました。拳を振り上げたまま、殴る相手も見つけられずにいたのかと思うと、苦しい人生だったろうと思うわけです。本当にお疲れ様でしたという気持ちになりました。
イシリーンのような娘も持てて、いじって遊べる生徒もいて、彼らが幸福な夫婦になる未来を願うこともできて、彼女の言うように、嘆くことはない最期だったのかなと思います。
マヨールとイシリーンが彼女の最期を見守り、言葉もなく、手を握り締めあったのが印象的でした。

第二世界図塔での戦い。マヨールが意地を見せた、と思いました。魔王術は使えない、世界樹の紋章の剣も奪われた、妹のような嘘も付けない。そんな彼はここで自分にできることと、他人に助けてもらう必要があることを理解していたと思います。
新世代を見ていてよく感じる部分でもあります。ラチェットは様々なことを思いつくけど、自分ではできないのでヒヨやサイアンを頼る。ラッツベインとエッジも二人で協力してやっと魔王術を仕組む。一人では完全ではないけど、誰かと組んでなにかを成すことができる。共闘というだけなら1,2部にもあったことですが、それとはまた違う繋がりを感じます。
ラチェットやイザベラに託されたマヨールには、聖域でのオーフェンほどの強さがあったのだろうとも思います。打ち勝つ強さが。

アイルマンカーの力は絶大ですね。大量の犠牲(それも唯人ではなく相応の術者)を要する召喚機を、邪魔されながらも作動させるパワーは呆気にとられるほどでした。
そしてスウェーデンボリーの召喚、まさかの光る花を携えての登場に痺れました。感動も冷めぬうちにあっさりと踏み潰されてしまいましたが…。しかし、あの花については「優しい気持ちになることは大事だ」と言っていたので、踏み潰す行為はひとつの区切りというか、合図のようにも思えました。あの瞬間、それまでは「計画」だった、ジェイコブズを修復に使用し、オーフェンから力を奪い返し、そして巨人種族を見捨てる筋書きまでが、あとは実行するだけの作業となったのかな、と。
ジェイコブズの最期はわりと呆気ないというか、悪党らしい最期でした。マヨールに告げた言葉は彼が辿り着いたひとつの答えだなと思いました。欲望に忠実で、それでいて一番現実感のありそうな、小さな夢。そこにしがみつくことができれば、確かにラクだろうなあと思います。
そしてジェイコブズを見向きもしないスウェーデンボリーの冷たさ。冷たいという表現も合わないような、どうでもいいという感じですね。彼はジェイコブズにはまったく関心がない様子でした。「盟友」という位置付けもシスターの修復に使うと決めた時点で、ないことになってたんだろうと思います。
ところでここでスウェーデンボリーが「わたしが《再び》巨人種族を見捨てようとしているのが、まだ分かってないかな」と言いますが、再び? 一度目はいつのことなんでしょうか…。

召喚機が動くタイミング、つまり結界内部と外部が繋がる瞬間、オーフェンがそれを利用して内部に力を送ってきました。オーロラサークルは召喚機を単独で動かすアイルマンカーすらもあっけなく撃ち滅ぼしました。これが魔王がケシオンに与えた力だったのかと思うと改めて恐ろしいです。

灰が降るシーンはかつて砂が降っていた光景を彷彿とさせます。女神の降臨は近いのだという緊張感が漂います。第三部が書かれていないせいか、そもそもこういうものなのか、カーロッタの真意はなかなか計れません。連れてきた強度のヴァンパイア達をなにに利用するのか、不吉な気分にさせられます。
召喚機の中に取り残されたスウェーデンボリーがどうなるのかも気になるところです。
カーロッタはすでに村まで来ていますが、オーフェンは学校にいるのか、結界の近くまで来ているのでしょうか。学校にいたとしてもローグタウンまで転移することは彼にとっては難しいことではないと思いますが…。
そして、カーロッタのいう「憎き仇敵」と「(珍奇な)友情」もまた、「相反しそうなものの抱き合わせ」ですね。

最後にそういえば、ですが。「解放者の戦場」時点ではスウェーデンボリーがどうやってオーフェンのところに現れたのか疑問だったのですが、偽造天人が完成したのがあのタイミングだったのかと今では推測できます。その魔術を利用し、オーフェンのところまで転移してきたのかな、と。通常魔術なので疑似空間転移でしょうが、スウェーデンボリーならば壁抜けも長距離移動もこなしそうです。
それでも「君が召喚したのかもしれない」と言うスウェーデンボリーはなかなか意地悪というか、演出家ですね。

読む前は「鋏の託宣」というタイトルから、スウェーデンボリーがなにかをしでかすのかと思っていましたが(いや、しでかしましたが)、それ以上に、今回の別離を表したタイトルだったのかなと思いました。切り離されて別れなければならない存在と最後にかわす言葉のような、そんな印象を受けました。
しかし、あくまで「託宣」という言葉ですから、カーロッタの最後の台詞が一番大きいのだろうとは思います。
作中とくに印象に残った言葉は、
・「あなたは生涯、怒る相手を探し続ける。失うっていうのはそういうこと」(イザベラ)
・「それでもね……これで、気が紛れるよ。優しい気持ちになるのは大事なことだ」(スウェーデンボリー)
・「魔王術なんてものに誰よりも精通した俺の、最後の責任だ」(オーフェン)
台詞以外の部分だと「暗い面持ちで、オーフェンはかつての友人を見つめ続けた」と「イザベラがこの世に置いていった怒りの熱量を思わせる」でした。

つらく重い話ながらも、オーフェン達が次の世代に託しはじめ、物語の収束を感じました。本当に終わるんですね、寂しいです。寂しいけれど、結末を見逃す気にはなれません。次巻が楽しみです。

【感想】小説「魔術士オーフェンはぐれ旅 魔術学校攻防」

魔術士オーフェンはぐれ旅 魔術学校攻防【初回限定版】

以下の感想にはネタバレ、考察を含みます。

折り込み口絵でいきなりノックアウト。そんな感じの新作です。

折り込み口絵の裏側ですよ。かっ、かっこいい…なんだこれ、かっこいい…。表情や突き出した腕、動きを感じさせる衣装(はためくローブはもちろん、身体の捻りに合わせてベルトが見えてるところとかさ…いいよね…)、画面をけぶらせる魔術の光…すごく好きです。
特に表情が若い頃の戦うオーフェンを彷彿とさせて、オーフェンだ!って感動しました。第4部オーフェンのキャラデザには不満はなくとも、やはり年を取ったぶん違和感はあったのですが、今回の口絵で、ああ、この人本当にオーフェンだったんだな…と。

愛の村。いきなり股間。どういうことなのか理解できない。いや、理解できるのがすごく嫌だと言うべきなのか……。
貧しいほどの質素な生活やそれを可能とする価値観は、(私には無理だとしても)みんなこうなら確かに幸せかもなと思わせるものでしたが。
ともあれ、ベイジット達は良い人達に助けられたようで良かったです。すぐにお別れになったし、ここでの生活がベイジット達の進む方向を変えることもありませんでしたが。
覚悟を決めたというか、ふっきれたというか、腹を括ったベイジットに恐怖を感じます。この先、彼女がどういった行動に出るのかが怖い。オーフェン・マヨール側の陣営になんらかの損害、場合によっては深刻な損害(人命の損害)を招きかねないのでは…そう思えて怖いのです。

一方、兄のマヨール。婚約者と師のおかげか、深刻に落ち込むこともなく、原大陸はぐれ旅を満喫しているようで。
登場したと思ったらいきなり魔王救出を掲げていて、ちょ、おま…ってなりましたが。この子いつの間にっていうくらいオーフェンにゾッコンになってて、3年前の舐めた態度が嘘のよう。いや、可愛い甥だなとは思いますが。
術者として憧れ、指揮者として憧れ、叔父として憧れ…とにかくその人を信じ切ってる感があります。悪い意味では超人的なオーフェンを信頼している。ただ、その部分に関しては、クリーオウとのやり取りで、彼女に言うべき言葉を考えることで、自身に言い聞かせるはめにはなっていたので、良かったです。マヨール、さすがに幼稚ではなかった。

マヨールとラチェットとのコンビ感、良かったです。いとこ宣言もぐっときました。ギャグだったけど。「え? 生きてるよね。死んでんの?」などなど、やり取り面白かったです。
ラチェットの傍若無人ともいえる奔放さにはハラハラしました。周囲の大人がブチ切れないか。エド、クレイリーはさすがでした。
特にクレイリーは初登場時の雑魚臭はなんだったんだろうってくらい男前の活躍をしてますね。魔術呪文も簡潔で身も蓋もなくて、いっそシビれるくらい。おべっか屋とあの戦士振りと、他にはないそのバランスが凄い。オーフェンやマジクもクレイリーの悪癖を理解したうえで、戦士として信用しているのが、このシリーズらしいなと思います(仲間を問答無用で信用するようなことがないあたり)。

話は戻ってラチェット。彼女の能力は予知系なんでしょうか。三姉妹の末娘で未来にかかわるって、それなんてスクルド。魔王オーフェンの娘達は、本家魔王が創り出した三姉妹と関連しているのか、いないのか……。
ヒヨやサイアンとの組み合わせも良かったです。殺伐とした情勢の中で和みをくれます。サイアンの不憫さと誠実さが良心的。
敵を始末すると言いきった父親について、涙を零すシーンにははっとさせられました。ダメダメな部分の父親を知っていて、彼が敵を始末するときにどんな気持ちになるのか娘達が考えたりするのかと思うと胸が痛いです。
マヨールともどもピンチな状況で以下続刊になっているので心配です。

マキとエドの関係も明らかになりましたが、意外なところで。どういう経緯で今の関係になったのか気になるところです。周りに反対されただろうか、とか、いろいろ考えてしまいます。

そして、前巻ではずっと座りっぱなしだったオーフェンがやっと動いてテンション上がりました。だって、いきなり門破壊とか。妻子には呆れられ、エドには叱られ…耳を塞ぐ仕草が可愛い。
ヒヨが彼の魔術構成を見て綺麗と言ったのが印象的でした。20年前ですらキエサルヒマ有数の魔術士だったオーフェンが、あれからさらに熟達したのだと思うと、気が遠くなります。それでもまだ伸びしろがなくなったのではないから怖い(スウェーデンボリーの制御レベルには達していない)。

オーフェンがクリーオウのことを「君」と呼んでいて、おっとそうなのか、となりました。昔は「おまえ」だったのに、オーフェンが「君」って呼ぶのは女性相手だったので、妻は女性扱いなんだなとしみじみ。
クリーオウは子供たちの前ではオーフェンのことを「お父さん」と呼んでて、すっかり母親が板についてるなあと感慨深いです。
夫妻の会話シーンは、膝枕してる図に脳内変換されてしましたが、よく読んだら違いました。マキがいるからそりゃそうか。

「学校を飛ばして対抗するか」「飛ぶのか」「飛ばねえよ」お前ら仲良しだな。こんな会話をするのが(前)顧問と隊長なのかと思うと、部下達の精神的疲労がしのばれます。
オーフェンの出陣を見送ることを、エドが「止めないという大仕事」と表現したことが切なかったです。相当いろいろあった二人だけど、エドにとってオーフェンは大事な存在なんだと分かって嬉しいような、こんな事態でなければ喜ぶだけで済んだのですが。

要塞船が飛んだのも予想外でしたが、レキに乗っての出陣も予想外でした。暴動や反発に読み手としても鬱屈が溜まっていただけに、敵を蹴散らしながらの出撃は高揚したし、カッコ良かったです。カッコいい半面、「心は固く塗り潰す」オーフェンがつらくもありましたが。
機能のみを追求した魔術士になるだけなのだと、そしてその機能は原大陸最高峰にまで研ぎ上げられたものなのだと思うと、そうせずに済む困難な道を選んできたのになあ…と、悲しくもなりました。

船上ではほぼボリーさんとの一騎打ち。天人種族もどきは、聖域の司祭を彷彿として、いかにも弱い印象を受けましたが、ドラゴン種族が造られていたということにはぞっとしました。
オーフェンが天人種族以外の始祖魔術士は滅ぼしたという記述がありましたが、ひょっとしなくても「アイルマンカー結界を外す=始祖魔術士を殺す」ということだったんでしょうか。オーリオウルはその時点ですでに死亡しており、オーフェンによって消されたわけではないので。
オーフェン自身は魔王術を知らない段階ですが、第二世界図塔を使って魔王の力を制御した術だったから、いちおう魔王術になるんですかね。

オーフェンの魔王術の呪文、すごく詩的でした。カッコいい。出だしの「遠く遠く歌の聞こえる」が好きです。
我は~系の呪文とはまた方向性が違い、マジクともラッツベインとも違って、魔王オーフェン独自の雰囲気が、一線を感じさせて良かったです。

ボリーさんの「力を失ったわたしは自分では魔術を発動できない」という話は、文字通りオーフェンに魔力を奪われたからってことでしょうが。
「魔術を奪う」技能については、魔力はないけど、魔術構成を読んで、書き換える技能はあるから、他人が魔力を注ぎ込んだ魔術の構成を書き換えることによって、自分が望む魔術に置き換えている(魔術を奪っている)ってところでしょうか。
構成の書き換えは理論上は可能だが、それを実行するには常識を凌駕した熟達が必要となる、というマヨールの話(@約束の地で)からすると、魔術泥棒ができるのは現時点ではボリーさんのみということになりそうです。
攻撃しようにも、自分の魔術を奪われた上に返されるわけなので、すごく厄介な相手ですね…。さすが本家魔王、いやらしい。
魔王術なら奪われないというのは、どう解釈すればいいのか悩んでいます。構成が特殊だから書き換えできないのかとも思いましたが、「魔王には使えない魔王術」という記述があるので、また別の理由のようです。

ボリーさんが「人間種族に魔王術を教える4つの理由」の4つめは、船上で明かされた内容ってことでいいんでしょうか。オーフェンに魔王術を授けることによってウォーカー化への足がかりを作る、と。
オーフェンは魔王術による制限がないため(失うことに意味を感じない→失うことに意味を感じる人だとこれ以上は失えないと感じる限界が存在する→術に制限が生じる→オーフェンにはそれがない、と今のところ解釈しています)、魔王の力を完璧に制御さえできれば、世界創造を成すこともできる。すなわちウォーカーになることができる。そしてそこに達した時、オーフェンに人間であることの喪失が訪れる――という解釈でいいのやらどうやら。ボリーさんの話は難しいです。
ただ、オーフェンがさほど動揺せずに話を聞いていて、もはや何が起こっても受け入れていくしかない覚悟が彼の中にはあったのかなと思います。
覚悟を決めたのは23年前かもしれませんが。絶望しても生きていけるという答えが、オーフェンに正気を失わせない、諦めさせない。見ている方がつらいです。彼の周囲の人間は、自分達には理解しえない彼の苦痛を思って、やはり苦痛を感じているのだろうと思うと、いたたまれないです。

女神の降臨も差し迫って、佳境を迎えつつあるんだという興奮と、物語が完結に向かう寂しさがあります。もっと読んでいたい。いや、第2部が完結した時の「もっと読んでいたい」が実現して、なかば夢を見るような心地でこの第4部と向き合っているわけなのですが。強欲です。

エド視点の番外編。面白かったです。「いい意味で」はつければフォローになるわけではないと、誰かがしっかり指摘するまで使い続けるんでしょうか。指摘するとしたらオーフェンの仕事になりそうですが。
子供の相手をするエドという光景がすごく意外で、でも見守る側の視点が感じられて、エドも昔とは違うんだなあと、やはりしみじみしました(いたるところで、しみじみせずにはいられない第4部)。

20年の歳月を感じさせて胸に沸くものも多く、破局の迫った緊迫感に苛まれる新作でした。とても面白かったです。

最後に腐女子視点で余計なことを言えば。
今回、魔王オーフェンがとても可愛かったです。門を壊して叱られたり、わんことコンビを組んだり、エドと漫才したり、ボリーさんに精神的にいじめられたり。妻子にもエドにも心配され、甥には救出を目論まれ、コギーは彼の娘を見てすぐに察し、キルスタンウッズはつてで協力し、大統領邸は身柄の引き渡しに応じず(ここはまあ色々あるのも分かってるんですが)、オーフェンの愛されてる感がすごい…。
読んでいる方が頭の痛くなるような環境にいるオーフェンですが、周囲の人間との信頼関係は篤く、頭痛を緩和してくれます。

BAD ENDにならないことを祈りつつ、次巻を待ちたいと思います。

自分用メモ

間違ってるかもしれないけど書き出さないと頭が整理できない。

神人 存在確認 確認方法 敵意
魔王スウェーデンボリー 第二世界図塔 なし
運命の女神(過去)ウルズ 文献
運命の女神(現在)ヴェルザンディ 来襲(キエサルヒマ) あり
運命の女神(未来)スクルド ×
海魔メイソンフォーリーン 来襲(海上) あり
デグラジウス 来襲(原大陸) あり
ウォーカー=ガンディワンスロン
  • 戦術騎士団…魔術戦士。現在の最高指揮者はマジク。
  • スウェーデンボリー魔術学校…魔術士+一般人。キムラック系開拓団とキエサルヒマ魔術士系開拓団の妥協点(なのでオーフェンが校長だった)。
  • 開拓公社…キエサルヒマ魔術士同盟と貴族共産会による開拓団。前身は貴族連盟が管理していたキエサルヒマ開拓組織。
  • キルスタンウッズ開拓団…アーバンラマ資本の開拓団。経営者はボニー。
  • 派遣警察隊…初期開拓団の監督から発足。拠点はラポワント市。総監はコンスタンス。
  • 軍警察…大統領配下。
  • リベレータ…貴族共産会。
  • 革命闘士…反魔術士、反資本家。

【感想】小説「魔術士オーフェンはぐれ旅 解放者の戦場」

魔術士オーフェンはぐれ旅 解放者の戦場【通常版】

発売後すぐに買ったのですが、バタバタしてしまって読めたのは夏になってからでした。そしてざっと1回読んだだけでろくな感想も書けないのですが、新刊の発売が目の前なのでちょっとだけ。
あとで直すかもしれないし直さないかもしれません。

  • ラチェットがすごい。言ってることが意味不明でストレスを感じないわけでもないけど、今後の活躍に期待してしまう。両親のどちらにも似てないような気がするのは気のせいだろうか。
  • 「犬」はやっぱりレキなんですね。魔術はもう使えないだろうけど、こうして見るとフェンリルはもとから変わった生き物なんだなあ、と。
  • エドさんがまた捕まってて笑った。(また=聖域)
  • ケイロンの腕から脱出後のエドはまさにエドだった。情け容赦のない成功率の最も高い戦法をとる様は痺れます。まさにおれたちにできない事を平然とやってのけるッ。
  • イシリーンに背負われててもエドだった。
  • エドとクリーオウの会話はなんだか感慨深かった。わずかながらでも一緒に旅したことで、開拓で培われたのとはまた別の彼らなりの絆がありそうだなと感じた。
  • クリーオウが夫よりもエドに似てるかもってのはちょっとどきっとした。クリーオウも目的のためにはなりふり構わないというか、物量的な損害を気にしないというか。オーフェンだってそういうところがないわけではないけど、方向と次元がひとつ違うような印象がある。
  • イザベラが強過ぎて衝撃を受けた。聖域ではあまり目立ってなかったけど、こんなに強かったのか。よく考えたらマジクの師匠だった。
  • 20年を経て戦いは苛烈を増したようにも思えるけど、凶暴化しただけのヴァンパイアとドラゴン種族の暗殺者とも謳われるレッドドラゴンでは、やはりレッドドラゴンに軍配が上がるのだろうか。(イザベラだって20年前より強くなってるだろうけど、それでもこれは…)
  • 世界樹の紋章の剣、やっぱり動いたー! でもなぜ。オーフェンが作る時に何か仕込んでおいたのか。別の要素が絡んでいるのか。気になるところ。
  • オーフェンはほとんど座りっぱなしだったけど、次は暴れてくれるだろうか…。これも期待したい。
  • 番外編でほっと息抜き。
  • 娘からプレゼントされたパジャマ着てるの可愛い。まともなデザインなのか心配だけど。
  • 秘書候補の方は小気味良く、有能でいいですね。実際に秘書としてバンバン活躍してもらいたかったくらいにもったいない。仕方ないけど。
  • オーフェンさんは早く結婚指輪を取ってきてあげてください。

【感想】小説「魔術士オーフェンはぐれ旅 原大陸開戦」

魔術士オーフェンはぐれ旅 原大陸開戦【特製小冊子付き初回限定版】

オーフェンの人生ハードモードというか、そもそもクリアの概念がないような…。

以下の感想にはネタバレ、考察を含みます。

序盤から大規模魔術が使用される戦闘で驚きました。二部までの魔術戦からは想像もできないというか、まさか空中戦とは…。
マジクの成長ぶりが目覚ましいというか空恐ろしいというか、ここまで至るのにどんな経験を経てきたのか考えると気が重くもなります。開拓史でのヴァンパイア戦はもちろん、キエサルヒマでの戦争とか。
一方で、お師様みたいな強い魔術士になりたいって言ってた子が、師匠に最も信頼される戦士になってるのは言葉にならないですね…。良かったねえと頑張ったんだなあと感慨深いです。
エッジのマジクに対する印象も改められそうですね。短期間で逃げた弟子という認識違いもいずれ訂正されるのかな? 彼女の魔王唯一の弟子という自負がどうなるのか不安ではありますが、ヴァンパイア戦の現実を知った以上、ばねに出来るだろうと思いたいです。

ラッツベインとエッジの戦闘もこれまでにないもので面白かったです。ネットワークの解析が進んだからこそという面もあるんですかね。20年という歳月でいろんな技術が進歩したんだなと思います(進歩させなけりゃ対応できなかったということもあるんでしょうが)。
ラッツベインの「愚図らず魔王術に専念!」で、彼女に対する印象も変わりました。妹の冷静さに助けられていましたが、いざ肝が据わるとさすがあの両親の娘というか。特に、生死きわどい場面で痛烈な一手を撃ちこむ父親を彷彿とさせるようでぐっときました。

新キャラのイシリーンはいい味出してますね。名前だけのモブかと思っていたんですが、まさかこんなにしっかり登場するとは…。
前作の展開からエッジとマヨールの仲を気にしていたので、肩透かしをくらった気になりつつも、イシリーンがいいキャラだったので残念ということはないです。
真面目すぎる部分のあるマヨールにとっては、背中を蹴ってくれるし、それでいて言いたいことも汲んでくれるしで、いい恋人なんだろうなと思います。

今回はクリーオウの出番もけっこうあって嬉しかったです。マヨール達を招き入れて食事を振るったりするところは、いいお母さんだなあと思いました。ラチェットが母親を煩わせないでと怒ったりするところからも、ほんと娘達から好かれてるんだろうなあと。
しかし、オーフェンが謝って今の暮らしになったってことは、さすがのクリーオウも何度かキレそうになったんですかね…。オーフェンの性格も開拓の困難も分かってるだろうし、ある程度は諦めてるし、腹を括っていた部分もあるだろうとは思いますが。もしくは、キレた相手はオーフェンじゃなくて議会あたりなのかな。旦那はしんどい思いをしてるし、娘は巻き込まれかねないし…と考えると。そうするとオーフェンが謝ったというか、キレるクリーオウを謝りながら止めたという想像になってしまいます(笑)。

母親らしさに和んだ後のヴァンパイア戦で「クリーオウはやっぱりクリーオウだった!」と思いました。めちゃくちゃだ…。しかし、さすが過ぎる。ラチェットとのコンビ感がいいですね。
飼い犬(レキなんでしょうか、「犬」としか表記されませんが)もしっかりサポートしてて、クリーオウの側にこの犬がいるのは安心感があります。この犬については、女神の呪いをもらう前の状態に戻ったフェンリルなのかなあと思ってます。
エッジはどうも三姉妹の中で貧乏くじを引く立ち位置のようですね。
クリーオウがオーフェンに相談したいことがなんなのか気になります…。オーフェンは次回も簡単には家に帰れなさそうな雰囲気ですが。

オーフェンパートは相変わらず胃が痛くなるような展開ですね。尋問とか、開拓史の話とか。でもラッツベインやエッジとの会話は和みました。水吐き病はひどい嘘だ(笑)。ラッツベインが天然なのは、オーフェンにも責任があるのでは…。

オーフェンの魔術は圧巻でした。周りの信頼もさることながら、マヨールから見た描写が凄いです。オーフェンはもともと優れた術士でしたが、その魔術についていちいち凄いと思うキャラは少なかったので。ラストの魔王術はもう信じられない規模で、本当に二部までとは相手が違うんだなと改めて感じさせられます。
エッジが目を逸らして震えていたのは印象的でした。魔王の孤独について思うところのあるエッジとしては、やはり魔王さながらの戦いぶりには複雑な思いもあるでしょうし、喪失しているものが分からないというのは不安が大きいと思います。喪失しているものによっては父親を失いかねないですし。
実際、オーフェンは何か喪失してるんでしょうか。魔王の力を手に入れてるから喪失はないのかとも思えますが。魔王スウェーデンボリーといえば「時間を呼吸し、夜空を食らって飢えをしのぐ」という話を思い出しますが、このへんを喪失されてたら大変そうです。まあ、このくだりはおとぎ話のようなものだとは思いますが。

クレイリーはすっかりいいキャラになった気がします。嫌なやつなのに憎めない。しかし、よくある「憎めないキャラ」とはベクトルが違う気がします、上手く言葉にできないんですが。
とりあえず、マジクやエド、シスタも存命のようでほっとしました。

「魔術戦士の師弟」でマジクがラッツベインに「君と同じことをした人を知っているよ」と言っていましたが、これは二部までにあったエピソードでしょうか、いまいいち記憶にないのですが。自分はとりあえずニューサイトを壊滅状態にしたオーフェンのことかな、と思っています。
ニューサイトに住めなくなったのは単純にデグラジウスのせいかと思ってたんですが、今回シマスに放った魔王術の規模を見ると、オーフェンが壊滅させたんじゃないかという気もします。汚染については女神の呪いよろしくデグラジウスのもたらしたものかとは思うんですが。

次回以降のオーフェンはどうなることやら。議会の弾劾が事態をより悪くしなければいいですが。場合によってはしがらみを捨てられるのかも?とも思いますが、なかなかそう上手くいくとも思えず。
そういえば、マヨールは「世界樹の紋章の剣もどき」を持って旅に出てるんですよね? 彼が魔王術を使えないのは驚きでしたが、この剣が使い物になれば、あるいは十分に戦えそうだなあと思うのですが。使い物にするにはまた小細工を仕込まなければいけないようですが、あの剣には何かありそうな気がします。
あとはケシオンもといボリーさんの再登場もあるかどうか気になるところ。
次巻は2012/2/25で思ったより早い刊行で嬉しいです。楽しみ。
《追記 2012/01/03》次巻「解放者の戦場」の発売は2012/03/25になったようです。

【感想】小説「魔術士オーフェンはぐれ旅 約束の地で」

魔術士オーフェンはぐれ旅 約束の地で

構想として、キエサルヒマ大陸西部編が第1部、東部編が第2部、新大陸開拓黎明期が第3部で、この新シリーズは第4部にあたるそうです。第4部を読んでしまうと、がぜん第3部も読みたくなります。第3部の流れはあとがきなどで明かされているのですが、神人種族との戦いがどのように描写されるのかが特に気になります。

以下の感想にはネタバレを含みます。

秋田BOXで既読ですが、今回は挿し絵付き。表紙の中年オーフェンは哀愁があっていいですね。口絵が爽やかなオシドリ夫婦(そう見える)で思わずニヤついてしまいました。後ろの方でデバガメしてる娘たちが可愛い。

オーフェンは20年の歳月を経て、(まさかの地位にも就いているというし、)すっかり落ち着いたのかと思えば、いきなり「魔王オーフェン・フィンランディは今日も、恐怖の魔力によって世界を征服する邪悪な計画を示す書類に目を通していた。」で笑ってしまいました。笑うというよりはほくそ笑むというか、まあ、にやにやしてしまうわけです。
この巻では、そんなニヤついてしまう箇所が多くてたまりませんでした。マヨールの母親似の顔とか、カーロッタ村の薪とか、胡椒引きとか、馬とか。
もちろんコメディとしてだけでなく、「あ、こういうところは昔と変わってないんだな」と感じられて、そういう意味でもニヤりとしました。

嫁のほうは優しい母親になったようで、だいぶ落ち着いた印象です。勢力的には嫁>夫のようですが。夫婦仲は睦まじいようで嬉しいです。
三姉妹ではエッジが好きです。気は強いけど、両親のことが大好きな可愛い子だと思います。父親のことはもちろん、そのボディガードなんて渾名された母親のことも尊敬してそうな感じを受けました(ところで、この「魔王のボディガード」っていうのがすごく好きです。クリーオウは昔と変わらず、死地にまでくっついて行ってサポートしてたのかと)。
そういえば、エッジとマヨールは仲良くなったなと思っていたけど、よく考えたら馬車の中で失望されたところからは回復したんでしょうか…。この二人は今後も気になるところです。

戦闘シーンではマジクが際立っていた印象です。訓練所でのマヨールから見た戦いぶりは燃えました。そんなに成長したのか、と。いや、もともと魔術に関しては才能を見せていた彼ですが、頼りない面もあったので。それが騎士団で一、二を争うとか、しかも争ってる相手があいつだとか。なにより、オーフェンに信頼されているというのがいいですね。なんだか感慨深いです。
しかし、ラッツベインや生徒にはちょっとなめられているような? 騎士団以外にはあまりその実力を知られていないのでしょうか。ひょっとして、魔術戦士の脅威に反発する勢力への対策として、マジクの強さってあまりおおっぴらにされてないのかなとも思いました。かと言って、強い戦士がいないのも問題があるから、隊長なんかがしっかり護衛などの仕事もやってるのかな、と。まあ、単純にマジクの性格がそういうものだからってだけかもしれませんが…。

シリアスな戦闘シーンではないんですが、ラッツベインがエッジをおしおきするシーンの描写が好きです。あっさりと、しかしはっきりと二人の力量差が見えて。
このシリーズの、戦士の力量を感じさせるシーンがすごく好きです。こんなに強いキャラがいるのかと圧倒されて、燃えるし、心躍ります。

クレイリーはいけ好かない奴ではあるんですが、訓練所で見せた技能や覚悟を見ると、彼もまた苦難の時をオーフェン達と一緒に歩んだ戦士なんだと思い出されて、前半部分のマイナス点がだいぶ軽減されました。収拾のつかなくなった会議を終わらせてくれますしね。

開拓黎明期の話は重いです。読んでいるだけでつらい。冗談だったはずの忠実な軍隊を手に入れることについて考えてしまうくだりも、それだけ苦労しているのかと思うと、切ない気持になります。
クリーオウやマジクがいてくれて良かったと思うし、今の彼が家庭に恵まれていることに気持ちが救われます。
そして、馬にかじられてたり、嫁に叱られてたり、娘に甘えられてるオーフェンを見ると安堵します。これからもそうあってほしい。
なんてことを思った後に、プルートーの密約が明かされたりして、ちょっと絶望的な気分になったりもしました。そっとしといてやってくださいなんて、そんな次元じゃないことも分かりますが。
すべてが上手くいって犠牲がない、ということのない作品だけに、今後の展開が不安です。しかし、早く読みたいのもまた事実。次巻が楽しみでしかたないです。

【感想】漫画「魔法騎士レイアース」

魔法騎士レイアース 新装版全3巻 完結セット 魔法騎士レイアース2 新装版全3巻 完結セット

読み返そうと思ったきっかけは忘れたのですが、とにかくもう一度読みたいと思って購入。

※大どんでん返しもある作品ですので、以下の感想は既読の方のみにおすすめいたします。

絵の美しさは言わずもがな。カラーの鮮やかさ、モノクロの力強さ、その華麗な絵柄が好きです。絵を眺めてるだけで楽しくて、何度もページをいったりきたりしています。

連載当時、掲載誌を読んでいたわけですが、第一部のラストは衝撃的でした。二部構成になるとも知らずに読んでいたのでそりゃあもう本当に…。これで完結なの!?みたいな。すぐに第二部が始まって安堵した次第です。
第一部の分かりやすく熱い展開も好きですが、第二部のシリアスな展開も好きです。最後がハッピーエンドで良かったです。

設定の大きさに対して、全6巻と短くまとまっていて、改めて読むとどんどん話が進んでいくなあと感心してしまいます。
もっといろいろ寄り道したり、エピソードを増やせる設定だと思います。特に第二部は他国も出てきて登場人物がぐっと増えたり、一部で登場したキャラの出番が少なめだったりするので、もう少し尺があっても良かったかも?と思ったりします。
ただ、人気作品がぐだぐだと引き延ばされてしまうのは好きではないので、これはこれでいいんだとも思っています。

疑問とか。『柱』が世界を支えるという独特のシステムを持つセフィーロは王制を持たないわけですが、しかし、ではなぜフェリオは「王子」扱いなのか…。『柱』であるエメロードに敬称として「姫」をつけるのはさておき、「柱の弟」が「王子」なのはちょっとした違和感を覚えます。『柱』の親族は王族扱いなのかしら。
(もともと「姫」だったエメロードが『柱』になったのか?とも考えましたが、王制がないからやっぱりそれは違うな、と)

気になるといえば、召喚システムは魔法騎士が勝つこと前提のものだと思うんですが、それでも魔法騎士が負けちゃった場合、やっぱりセフィーロは滅びちゃうんですかね……。
あとは『柱』の存命中に『柱』よりも意志が強い者が現れたらどうなるんだろう…とか。自分でいろいろと考えてみる余地もあって楽しいです。

好きなキャラはクレフです。以下、長いぞ。
10歳前後の外見ではありますが、745歳で、導師という立場や性格から、ずいぶんキリッとしているので、見たまま子供という印象は持てません。とにかく美人で眼福です。
真っ白い法衣を纏って神聖な雰囲気があったり、でも持ってる精獣が何も考えてなさそうな飛び魚だったり、カッコいいんだか可愛いんだかよく分からんです。好きです。
第一部では崖から跳び下りて登場したり、杖で海を殴ったり、なかなかアグレッシブな人でしたが、第二部のクレフがそんなことをやってる姿は簡単には想像できません。平和になってシリアス脱出したら、またジタバタ暴れたりするんだろうか…。いや、あれは事情を知らない海達が真面目に話を聞かないから怒ってたわけで。クレフが最高位の導師だと知ってるセフィーロの人たちが相手だと、怒るようなこともあまり起こらないのかも。
最高位の導師ということで、すごい実力者で、きっとチートキャラなんだろうな…と思わせる雰囲気も好きです。でもそんなキャラはたいてい前線には立ってくれない…知ってます(アニメ版では身を削ってセフィーロを守っていたようで、それもまたいいですね。城全体を守るくらいなら、いっそ敵艦を撃ち落とした方が効率いいのでは…とか思ってすみません)。
第二部はクレフの出番も多めで嬉しかったです。セフィーロを守りたいという願いと、悲劇を繰り返したくないという憂いを抱え込んで、心を痛める様が儚げでたまらんです。
プレセアみたいなしっかりしてそうな女性や、海みたいな強気な女の子に慕われてるところもなんだか好きです。強いからこそ無理してしまうタイプであろうクレフの危うさを支えられるのは、そういう人なのかな、と。恋愛要素抜きに考えてもいいなあと思います。好きなエピソードは第二部のクレフと海の会話。

ところで、なぜクレフは小さいままなのか。強い意志があれば急成長できることはアスコットが示してくれますが、そうでなければ普通に成長していくのだろうと考えているのですが…。成長したくなかったのか、成長してはいけないのか、成長できなくなるようなことでもあったのか。
彼は前の代替わりも経験しているので(エメロード姫を生誕から見守ってきたという話があるので)、そのあたりにきっかけがあったりなかったりするのかなあと思いを馳せたりします。
そういうミステリアスな部分もいいですね。

さて、妄想も混じってきたのでこの辺にして。

『心』の力がテーマというのもあって、登場人物たちの凛とした眼差しが印象的な作品でした。
久しぶりに読み返して、とても楽しめました。面白かったです。

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