【感想】小説「時砂の王」


時砂の王(小川一水)

西暦248年、不気味な物の怪に襲われた邪馬台国の女王・卑弥呼を救った“救いの王”は、彼女の想像を絶する物語を語る。2300年後の未来において、謎の増殖型戦闘機械群により、地球は壊滅、さらに人類の完全滅亡を狙う機械群を追って、彼ら人型人工知性体たちは絶望的な時間遡行戦を開始した。そして3世紀の邪馬台国こそが、全人類史の存亡を懸けた最終防衛線であると――。

人類の存亡を懸けた時間戦争SFです。が、1冊で完結しているというお手軽さだったので、手にしてみました。

以下、ラストのネタバレまで含んだ感想です。カッティ大好き!な感じになってます…。

人類側の登場人物はたいてい好きでした。啖呵を切る彌与のカッコよさも、苦悩するオーヴィルの切なさも、カッティの冷たさも。特にカッティはオーヴィルからは疎まれていたようですが、私は大好きでした。冴え冴えとした透明感のある美女を想像していました。カッティ=サークという名前もいかにもシャープで似合っていると思います。

カッティがひとつの時間枝に見切りをつけるたびにオーヴィルたちは不満(悔しさからくるものが一番大きいのだとは思うけど)を募らせていっていましたが、私は彼女が諦めると「この時代ではこれ以上メッセンジャーたちは死なないんだな」とほっとしていた気がします。

それにカッティのラストには痺れました。自爆でアフリカ戦線の敵の8割を殲滅とかカッコ良すぎる。彌与の「それで戦っていたつもりか?」というセリフが効果的だったと思います。カッティは最後の最後で前線に立ったんだな、と(そもそも戦略知性体である彼女に物理的な武器を持てというのも無理な話ですが)。

また、この自爆は敵の殲滅以外にも大きな効果をもたらしました。反物質を用いた爆発は、21世紀から時間軍が救援に来るきっかけ、すなわち過去に時間戦争があったという裏づけになるのです。こちらはカッティの「死にすら意味があると言われるのは。」とリンクしているようで、これまたじわじわと興奮しました。

途中で戦線離脱したアレクサンドルの童話も、未来まで伝わっていたようで良かったなあと思いました。

オーヴィルは最初から最後まで切なかったです。彼を癒そうとする彌与を必死に応援してました。しかし、ラストで「サヤカ」とくるとは、お前、そこまで!と。とどめのようなものを刺された気分でした。オメガが空白があると気づくのもまた辛かったです。ただ、オーヴィルが最期に見て名を呼んだのは確かに彌与で、またオメガが心惹かれた相手が沙夜であることから、彌与はオーヴィルの空白を埋めるに足る女性だったのだと思います。

彌与は本当にカッコ良かったです。頭も良く、度胸もあって。ラストの叱咤激励にはぐっときました。それでいて幹に抱きしめられて安堵したりするのを見ていると、やっぱり一人の少女なんだなと感じて、戦の過酷さに苦しさも覚えました。

最後は3世紀のETを殲滅できたということで、戦争としては勝ちであり、この時間枝としてはハッピーエンドなんでしょうが、すかっとはしませんでした。読後感が悪いというほどではないですが、やっぱり切なさが残るなあと。ただ、オーヴィルの長く辛い戦いは終わり、彌与も穏やかな人生を歩み始めるようで、これで良かったんだろうなあとも思います。