【感想】小説「魔術士オーフェンはぐれ旅 女神未来(下)」 【号外】

※「女神未来(下)」の重大なネタバレを含みます。※

未読の方はご注意ください。曖昧にすることなく、物語の核心についてズバズバと書いてあります。

とりあえず、ざざっと読んでの臨時の感想といったところです。まだ落ち着いて再読できていないので、読み間違いなどが多数あると思います。あと凄く興奮しているので、文章がいろいろアレです。ご了承のうえ、閲覧ください。
いつものじっくり感想文はまた後日したためる予定です。


さて、いやもうなにこれ、もうどうしよう、どうしたらいいの、なにから話そうか。とりあえず人物別に語っていこうかな、うん。

ヴィクトール

あばばば、思っていたよりとってもアグレッシブ! 機動力のあるお坊ちゃまだった!
いやあ、実はけっこう好きなキャラで、再登場に(゚∀゚)ってなったんですが、ついてくるとか言い出して、大丈夫か?死ぬのか?死ぬなよ!?と焦りもしたんですが…。
口の上手い政治屋らしい、魔術士には馴染まないちょっと澄ましたお兄ちゃんかと思っていたら、いきなり鋏拾ってトンズラダッシュときた! すごい! びっくりした!
マルカジットに追いかけられたときは死ぬのかと思ったけど、死ななかった。それどころか、懐から華麗に拳銃を取り出して発砲! まじですごい…。おしとやかなメッセンジャーかと思ったら違ったわ。オーフェンと喧嘩するドロシーをいさめていた青年には見えない。能ある鷹は爪隠すとはまさにこのこと。いや、有能そうな雰囲気はばりばり放ってましたが。なんというか、ただのいい子ちゃんじゃなかったんだな、と。いい意味で裏切られました。
ヴァンパイアがいるローグタウンを目指しながら、温和な態度ながらも魔術士にとっては嫌みな性格で油断させておいて(いや、本人は嫌みなつもりはないんだと思いますが)、不意に訪れた機会を逃さず動き、迷いなく発砲する、これをマヨールとそう年の変わらない、しかも戦士でもなんでもない青年がやるわけですよ。彼は開拓初期の抗争、壊滅災害を、おそらくその混乱の真っただ中で経験し、生き抜いてきた原大陸の若者だったんだと、唐突に思い知らされた心地です。
でも、殴られてもキレたりしないところとか、なんかいいですね。そういうので怒ると小物じみてしまいますし。いいものを見せてもらった。

クリーオウ

つええええええええ。お母さんつえええええええ。
施錠銃! おお、なんと感慨深い武器でしょう…。腕がなまったとか言いながらも数百メートル離れたマルカジットの頭を打ち抜くお母さんまじ最強の戦士。いや、冗談抜きに。その鋼の精神力にも。カーロッタすら感心しているように見えました。
「魔王のボディガード」って実はコメディ要素から生まれた尾ヒレのついた渾名なのかなと思ったりすることもあったんですが、戦いぶりを見ていると伊達ではないように思えます。
しかし、娘のピンチにも動揺を見せなかった彼女が、ライアンに動揺したのはちょっと意外でした。だって偽物だし。しかし、それほど深い傷なのだと改めて示された感じではあります。オーフェンさんは早く奥さんを抱きしめてあげてください。
それにしてもやはり全体的には、クリーオウの貫録が半端ないと思いました。

クレイリー

うわあああああああぎゃああああああああいやああああああああああ ←まじこれ。
なんすかこれ。なんなんすか、こんなことがあっていいんですか。
車椅子で校長室に突っ込んできて倒れてるの可愛いwとか思ってたら、これですよ。信じられない。は!? は!? はああああああああああ!??ってなりました。
いや、これは、さすがクレイリーというべきなんでしょう。彼の信念というか、忠誠心の凄まじさよ…そしてその忠誠は魔術士全体に捧げられていたんだと、やっと分かりました。なにが彼をあそこまで忠実な戦士として動かすのか、それはちょっと気になっていたんです。おべっか屋と言われながらも、いざ戦いとなると手足を失ってでも任務を果たそうとする、その敬服してしまうような忠誠心はどこから、と。
オーフェンが魔術士社会を守るために騎士団を設立し、学校を運営し、そして今回の混乱では大統領邸に魔術士の地位回復を約束させた…そんなオーフェンだったから、クレイリーは魔術戦士として命を掛けて戦ってきたのかなあ、と。市議会と仲良くやっていたのも、そうしなければ魔術士社会を維持的ないと分かっていたからなんでしょう。戦士として戦うだけでは足りない。実際にそのおかげで、オーフェン逮捕後も魔術学校は市議会に乗っ取られずにいたわけですし。
この最終決戦で、オーフェンは魔術士社会を案じながらも、開拓村をも守ろうとした。もちろんそれだけなら問題はなかったのでしょうが、開拓村を守ることによって生じる損害が大きくなりすぎた。オーフェン本人も認めていましたが、戦いが厳し過ぎて、損害が生じることが当たり前だと思ってしまったということです。損害が出るとしても、魔術士を優先するべきだったんです。少なくともクレイリーやほかの魔術戦士にとっては。だってオーフェンは原大陸の魔術士の長なんですから。それをしないのは、まさに魔術士社会にとっては反逆者でしかない。
これは、このクレイリーの裏切りは仕方ない、と思うんです。むしろオーフェンのほうが魔術士達を裏切ったとも言える。そう思うんだけど、やっぱりつらい…。つらいです。魔王術士としても戦士としても校長補佐としても信頼していた部下に裏切られるとは。いや、大事なことを忘れていたオーフェンにとっては、クレイリーが魔術士のことを考えてくれていて良かったとも思えるのかもしれませんが。魔術戦士がみな死刑っていうのはさすがに困りますし。

この決別がつらいながらも、仕方ないと納得できるのがせめてもの救いです。クレイリーの両手足もいちおう復活しましたし。
しかし、オーフェンを逃がしてくれるあたりに、やっぱりこれまでの20年に多大な恩を感じているのも確かなんだろうなあと思います。要はクレイリーが裏切りを決意するまでのオーフェンは、クレイリーが命を掛けるに値すると思えるだけの働きをしていたということでしょうし。
どう方便を口にしようと、恩人を逃がす、その答えを出すのは情の部分だってことですね。

まあ、お互い年を取って権力とは無縁の隠居生活になったころにでも、談笑して欲しいものです。年も近いみたいですし。クレイリーの忠誠心を考えるとあまり長生きしそうにも思えないのがつらいところですが。

マジク

ブルータス、お前もか。
云われてみれば、そりゃそうか。魔王術の代償が魔術になるくらい、魔術士でしかないマジクが、魔術士よりほかを優先したオーフェンに従うわけないですね。魔術士社会にクレイリーのような忠誠心はなさそうですが、死に場所もくれないんじゃね。
クレイリーが校長席にいるのをしきりに嫌がっていたのは、実際にクレイリーが騎士団のトップとなることが実現するそのときは、自分もオーフェンの配下から抜けるってのが分かってたからですかね。開拓村のことでごにょごにょ言っていたのもそのためか…、いや、これはオーフェンへの忠告というよりは、本心として開拓村への配慮など必要ないと思ってそう。
実際、オーフェンを裏切ったこと自体にはあまり感慨はなさそうでしたね。本当にマジクの心は死んでるんだなあと思いました。
魔王討伐にマジクがいたのは、(それができる技量の戦士として選ばれたというのもあるんでしょうが)カーロッタと戦えない、仇を討つ相手が得られない代わりに、オーフェンを殺すつもりだったんでしょうか。代わりの死に場所、というか。
ただ、お師様という言葉でその気がなくなったくらいにはオーフェンへの気持ちは残ってたようです。笑ってお別れできたのが救いですかね。

カーロッタ

やってくれた。
女神降臨が目的なら、彼女が否定しているクオと同じだよな…と思いついて以来、女神降臨が目的じゃなさそうだとは思っていましたが。
彼女の約束は、必ず破滅が訪れるということ。それが世界の正しい在り方。しかし、このまま魔王術と巨人化が進んでいけば、神人種族すら超える、すでに超えつつある。これでは破滅を免れ得る――約束を違えてしまう、ということですかね。
聖域でのオーフェンの答えと似てますね。破滅は必ず来る、世界はそういうふうに出来ている。それを避けようとするのは死と同じ。カーロッタの「永遠に生きるつもり?」という台詞は、かつてオーフェンが玄室の始祖魔術士に対して思ったことと同じではないでしょうか。
カーロッタが今回やったことは、様々な状況を読み、それらを実にうまく利用して、20年に渡って築かれてきた原大陸の社会を徹底的に、回復にかなり時間を要するまで破壊したことです。オーフェンがキエサルヒマの結界を破ったように。
そして、ベイジットなら大丈夫だと彼女は考えたから、委ねた。託すとは違う言葉を使ったのが意味深でした。ラストも合わせて、20年前に託されたオーフェンのように重荷を背負わされて苦しむ人間は今回はいないんだな、と感じました。カーロッタが歪みは自分が引き受けると言ったのが、そういうことかな、と思いました。アザリーや領主はオーフェンに犠牲を払って戦えと言ったけど、カーロッタはそうは言いませんでした。(もちろんカーロッタは確実な破滅を信じているという違いはあるんですが)

オーフェンに別れを告げるシーンがすごく切なかったです。ああ、本当に、本当に二人とも長い旅をしてきたんだな……。
ベイジットが、カーロッタは鋏ではなくオーフェンを取りこむつもりだったと言ったのがドキっとしました。オーフェンが鋏と同等の存在だという事実にドキリとしたのももちろんですが。それ以上に、そうしていたら、オーフェンも一緒だったら、カーロッタは寂しくなかったのかな、と考えてしまいました。オーフェンに別れを告げたとき、代替となる鋏があったからオーフェンを見送ることができたわけですが、彼女がオーフェンを連れて行かずに済んだことをどう感じていたのか、考えようとすると涙が出てきます。
オーフェンは出発地点に戻る…、カーロッタは旅を終える。「笑わないわ……だって、ただひとりの友達とのお別れですもの」その言葉を何度も読み返してしまいます。
お互いをはぐれ者だと理解し合っていたオーフェンとカーロッタの間には、確かに友情があったんだなと思いました。

オーフェン

死んだかと思ったじゃん ばかあ!!
「もう魔王ではなくなったその男の最期を看取るのは」という文が目に入ったときは、本当に心臓がきゅっとなって、視界の文章がぐるりと回ってズレて重なり合って読めなくなるという状態になりました。いったん本を置いて、ちょっと気を落ち着けてから、また続きを読みました。あー、もう、無事でよかった…。

前半あまりにも動きがなくて、少しつまらなくも思っていたんですが(いや、倒れたクレイリーを引き起こして上げたりとか可愛かったですが)、まさかのクレイリーの裏切りで大どんでん返し。すべての部下を失い、ひとりで敗走……まさかこんなオーフェンを最終巻で見ることになるとは。
己の聖域とする墓場に戻る姿は、なるほど、原大陸におけるアイルマンカーはオーフェンだったというわけです。スウェーデンボリーの「自分が作った世界からは逃れられない」という言葉に、オーフェンが心当たりがあると言っていたのもこのためでしょう。これは「原大陸開戦」以降しばしば見られていた要素です。オーフェンがいなければ騎士団はうまく回らない、キルスタンウッズや大統領邸とも連絡を取り合えるオーフェンの存在がいかに大きかったか…。
おそらくこの20年間ずっとそうだったのでしょう。オーフェンは20年前にキエサルヒマの秩序を破壊し、自分が新たに作った原大陸の秩序から逃げられない状態になっていたのです。オーフェンは魔王術を使う騎士団を組織し、カーロッタを始め様々な勢力と対峙することで、原大陸の均衡を保ってきた…それは結界でキエサルヒマを守っていたアイルマンカー達と同じだったということです。
「こんな世界は滅べばいい」この言葉の本心も見えてきます。オーフェンは分かっていたのでしょう。
ただ、すべての力を奪われ、再び出発点に戻る彼は、もはや玄室のアイルマンカーではなく、ただのはぐれ魔術士に戻ったわけです。だからこそ、カーロッタは自分が連れていくのは鋏でいいと思ったのかもしれません。…カーロッタ、すごいなあ…。

最後に肩の荷が下りた様子でのんびりしているオーフェンに安堵しました。作業を堂々とサボってて可愛いお父さんですね。
最後のオーフェンは、例えを探せば、十三使徒を失って牙の塔で隠居状態のプルートーと同じ状態ってところでしょうか。なんの権威もない使い走り程度にしかならない魔術士だけど、戦士としての彼を覚えている魔術士達はみな彼を怖がっている…そんな存在。

しかし、原大陸はまたいつか混乱に陥るでしょうし、はぐれ魔術士に戻った以上、オーフェンのはぐれ旅も続くんだろうということも考えてしまうわけですが。ただ、オーフェン自身は旅が終わったような気がすると感じているようなので、案外ほんとに隠居できてしまうのかもしれません。さて…。
なにはともあれ、今はどこの組織も大きいことは出来ない状態になってますし、しばらくは平穏を味わってもらいたいものです。

スウェーデンボリー

ひぃやああああああああああああああああああああ!
うわああああああ……あああ……
お察しください。

いえ、薄々は予感してました。偽造天人が作った結界はもうないから女神はこない、ならば、なんの用があってローグタウンに? ローグタウンにはなにがある? 魔王が閉じ込められた世界図塔がある――その想像を繰り返しては、絶望を味わっておりました。
なので、やっぱりね…というところなんですが、いざ本当に逃れようもなく、はっきりと明記されてしまうと、やはりしんどいです。
かつてカーロッタが「あなたがわたしの側でも良くない?」と言ったとき、ボリーさんは苦笑を返して濁していたので、彼はカーロッタの考えは分かっていたように思えます。ただ、その案は嫌だ、ということだったのかもしれません、彼の考えは分かりませんが。しかしまあ、カーロッタが「捕らえておいてくれた」と表現していたので、やっぱり本意ではなかったんだろうなと思います。
死にたいと言っていたことを考えれば、これはこれでありなんじゃないかと慰めてやるくらいしか…。

いやあ、ボリーさん、好きでした。いえ、過去形ではなく今も好きですが。
本当に憐れな魔王だったなあと、これまた涙が出てきます。世界を創造した存在が、力を奪われて貶められて、それでも怒り狂うこともなく、ゆったり構えていて。創造主として調停者として、世界を守るために1000年を孤独に過ごした魔王。
結局、彼の望みは叶わなかったんだなあと思います。始祖魔術士達が常世界法則を破ったときに、彼の世界は破壊されていたのだと改めて考えさせられます。

オーフェンのそばに20年近くいただけあって、クレイリーに裏切られたオーフェンが思い浮かべたのも、この魔王のことでした。憎くもあったし、親しくもあった魔王。
オーフェンは今回の戦いで、カーロッタとスウェーデンボリーという友人二人を失ったんだと、悲しくなりました。

あとは、番外編で校長と仲睦まじい秘書の姿が拝めるといいなあと祈るばかりです。

魔術士とは

さて、魔王術と巨人化による致命的な問題はなくなり、オーフェンも原大陸の魔王という地位から降りることができたわけですが。
しかし、これで良かったのかなあ?と思う部分もあります。特に魔術士社会について。魔術士が魔術士ではない職に当たり前に就ける社会、という理想のようなものが、しばしば語られていたのですが…。この結末では、魔術士はどこまでいっても魔術士でしかないということが示されたように思えます。魔術という異能を持った戦士としての魔術士、魔術という労働力を持った魔術士。そして、またいつか戦争になれば、その力を振るうことになる。魔術士として。
魔術はこの世界の宿業であるということが語られた以上、これはこの先もずっとつきまとう問題なのかもしれません。ドラゴン種族のように種全体が魔術士になっていれば、また話は違ったのかもしれませんが。
この点については、なんだかとてもやるせない感じが残ります。

もちろん、ラッツベインやエッジ、ラチェット、そしてベイジットがこれからどのような道を歩むのかは分かりません(ただ、その部分の展望も、具体的には語られることはなく終わってしまったのですが。いや、新天地だからなんでも出来るだろうと、オーフェンが少なからず語っていましたね)。

オーフェンは長い旅が終わったような気がすると言っていますし、オーフェンを軸としたこの物語はこれでおしまいというところでしょうか。本人も自分の代ですべての問題が片づくとは思ってないと言っていましたし。

これから先、長い歴史の中でなにか変わっていくこともあるのかもしれません。