【感想】小説「魔術士オーフェンはぐれ旅 魔術学校攻防」

魔術士オーフェンはぐれ旅 魔術学校攻防【初回限定版】

以下の感想にはネタバレ、考察を含みます。

折り込み口絵でいきなりノックアウト。そんな感じの新作です。

折り込み口絵の裏側ですよ。かっ、かっこいい…なんだこれ、かっこいい…。表情や突き出した腕、動きを感じさせる衣装(はためくローブはもちろん、身体の捻りに合わせてベルトが見えてるところとかさ…いいよね…)、画面をけぶらせる魔術の光…すごく好きです。
特に表情が若い頃の戦うオーフェンを彷彿とさせて、オーフェンだ!って感動しました。第4部オーフェンのキャラデザには不満はなくとも、やはり年を取ったぶん違和感はあったのですが、今回の口絵で、ああ、この人本当にオーフェンだったんだな…と。

愛の村。いきなり股間。どういうことなのか理解できない。いや、理解できるのがすごく嫌だと言うべきなのか……。
貧しいほどの質素な生活やそれを可能とする価値観は、(私には無理だとしても)みんなこうなら確かに幸せかもなと思わせるものでしたが。
ともあれ、ベイジット達は良い人達に助けられたようで良かったです。すぐにお別れになったし、ここでの生活がベイジット達の進む方向を変えることもありませんでしたが。
覚悟を決めたというか、ふっきれたというか、腹を括ったベイジットに恐怖を感じます。この先、彼女がどういった行動に出るのかが怖い。オーフェン・マヨール側の陣営になんらかの損害、場合によっては深刻な損害(人命の損害)を招きかねないのでは…そう思えて怖いのです。

一方、兄のマヨール。婚約者と師のおかげか、深刻に落ち込むこともなく、原大陸はぐれ旅を満喫しているようで。
登場したと思ったらいきなり魔王救出を掲げていて、ちょ、おま…ってなりましたが。この子いつの間にっていうくらいオーフェンにゾッコンになってて、3年前の舐めた態度が嘘のよう。いや、可愛い甥だなとは思いますが。
術者として憧れ、指揮者として憧れ、叔父として憧れ…とにかくその人を信じ切ってる感があります。悪い意味では超人的なオーフェンを信頼している。ただ、その部分に関しては、クリーオウとのやり取りで、彼女に言うべき言葉を考えることで、自身に言い聞かせるはめにはなっていたので、良かったです。マヨール、さすがに幼稚ではなかった。

マヨールとラチェットとのコンビ感、良かったです。いとこ宣言もぐっときました。ギャグだったけど。「え? 生きてるよね。死んでんの?」などなど、やり取り面白かったです。
ラチェットの傍若無人ともいえる奔放さにはハラハラしました。周囲の大人がブチ切れないか。エド、クレイリーはさすがでした。
特にクレイリーは初登場時の雑魚臭はなんだったんだろうってくらい男前の活躍をしてますね。魔術呪文も簡潔で身も蓋もなくて、いっそシビれるくらい。おべっか屋とあの戦士振りと、他にはないそのバランスが凄い。オーフェンやマジクもクレイリーの悪癖を理解したうえで、戦士として信用しているのが、このシリーズらしいなと思います(仲間を問答無用で信用するようなことがないあたり)。

話は戻ってラチェット。彼女の能力は予知系なんでしょうか。三姉妹の末娘で未来にかかわるって、それなんてスクルド。魔王オーフェンの娘達は、本家魔王が創り出した三姉妹と関連しているのか、いないのか……。
ヒヨやサイアンとの組み合わせも良かったです。殺伐とした情勢の中で和みをくれます。サイアンの不憫さと誠実さが良心的。
敵を始末すると言いきった父親について、涙を零すシーンにははっとさせられました。ダメダメな部分の父親を知っていて、彼が敵を始末するときにどんな気持ちになるのか娘達が考えたりするのかと思うと胸が痛いです。
マヨールともどもピンチな状況で以下続刊になっているので心配です。

マキとエドの関係も明らかになりましたが、意外なところで。どういう経緯で今の関係になったのか気になるところです。周りに反対されただろうか、とか、いろいろ考えてしまいます。

そして、前巻ではずっと座りっぱなしだったオーフェンがやっと動いてテンション上がりました。だって、いきなり門破壊とか。妻子には呆れられ、エドには叱られ…耳を塞ぐ仕草が可愛い。
ヒヨが彼の魔術構成を見て綺麗と言ったのが印象的でした。20年前ですらキエサルヒマ有数の魔術士だったオーフェンが、あれからさらに熟達したのだと思うと、気が遠くなります。それでもまだ伸びしろがなくなったのではないから怖い(スウェーデンボリーの制御レベルには達していない)。

オーフェンがクリーオウのことを「君」と呼んでいて、おっとそうなのか、となりました。昔は「おまえ」だったのに、オーフェンが「君」って呼ぶのは女性相手だったので、妻は女性扱いなんだなとしみじみ。
クリーオウは子供たちの前ではオーフェンのことを「お父さん」と呼んでて、すっかり母親が板についてるなあと感慨深いです。
夫妻の会話シーンは、膝枕してる図に脳内変換されてしましたが、よく読んだら違いました。マキがいるからそりゃそうか。

「学校を飛ばして対抗するか」「飛ぶのか」「飛ばねえよ」お前ら仲良しだな。こんな会話をするのが(前)顧問と隊長なのかと思うと、部下達の精神的疲労がしのばれます。
オーフェンの出陣を見送ることを、エドが「止めないという大仕事」と表現したことが切なかったです。相当いろいろあった二人だけど、エドにとってオーフェンは大事な存在なんだと分かって嬉しいような、こんな事態でなければ喜ぶだけで済んだのですが。

要塞船が飛んだのも予想外でしたが、レキに乗っての出陣も予想外でした。暴動や反発に読み手としても鬱屈が溜まっていただけに、敵を蹴散らしながらの出撃は高揚したし、カッコ良かったです。カッコいい半面、「心は固く塗り潰す」オーフェンがつらくもありましたが。
機能のみを追求した魔術士になるだけなのだと、そしてその機能は原大陸最高峰にまで研ぎ上げられたものなのだと思うと、そうせずに済む困難な道を選んできたのになあ…と、悲しくもなりました。

船上ではほぼボリーさんとの一騎打ち。天人種族もどきは、聖域の司祭を彷彿として、いかにも弱い印象を受けましたが、ドラゴン種族が造られていたということにはぞっとしました。
オーフェンが天人種族以外の始祖魔術士は滅ぼしたという記述がありましたが、ひょっとしなくても「アイルマンカー結界を外す=始祖魔術士を殺す」ということだったんでしょうか。オーリオウルはその時点ですでに死亡しており、オーフェンによって消されたわけではないので。
オーフェン自身は魔王術を知らない段階ですが、第二世界図塔を使って魔王の力を制御した術だったから、いちおう魔王術になるんですかね。

オーフェンの魔王術の呪文、すごく詩的でした。カッコいい。出だしの「遠く遠く歌の聞こえる」が好きです。
我は~系の呪文とはまた方向性が違い、マジクともラッツベインとも違って、魔王オーフェン独自の雰囲気が、一線を感じさせて良かったです。

ボリーさんの「力を失ったわたしは自分では魔術を発動できない」という話は、文字通りオーフェンに魔力を奪われたからってことでしょうが。
「魔術を奪う」技能については、魔力はないけど、魔術構成を読んで、書き換える技能はあるから、他人が魔力を注ぎ込んだ魔術の構成を書き換えることによって、自分が望む魔術に置き換えている(魔術を奪っている)ってところでしょうか。
構成の書き換えは理論上は可能だが、それを実行するには常識を凌駕した熟達が必要となる、というマヨールの話(@約束の地で)からすると、魔術泥棒ができるのは現時点ではボリーさんのみということになりそうです。
攻撃しようにも、自分の魔術を奪われた上に返されるわけなので、すごく厄介な相手ですね…。さすが本家魔王、いやらしい。
魔王術なら奪われないというのは、どう解釈すればいいのか悩んでいます。構成が特殊だから書き換えできないのかとも思いましたが、「魔王には使えない魔王術」という記述があるので、また別の理由のようです。

ボリーさんが「人間種族に魔王術を教える4つの理由」の4つめは、船上で明かされた内容ってことでいいんでしょうか。オーフェンに魔王術を授けることによってウォーカー化への足がかりを作る、と。
オーフェンは魔王術による制限がないため(失うことに意味を感じない→失うことに意味を感じる人だとこれ以上は失えないと感じる限界が存在する→術に制限が生じる→オーフェンにはそれがない、と今のところ解釈しています)、魔王の力を完璧に制御さえできれば、世界創造を成すこともできる。すなわちウォーカーになることができる。そしてそこに達した時、オーフェンに人間であることの喪失が訪れる――という解釈でいいのやらどうやら。ボリーさんの話は難しいです。
ただ、オーフェンがさほど動揺せずに話を聞いていて、もはや何が起こっても受け入れていくしかない覚悟が彼の中にはあったのかなと思います。
覚悟を決めたのは23年前かもしれませんが。絶望しても生きていけるという答えが、オーフェンに正気を失わせない、諦めさせない。見ている方がつらいです。彼の周囲の人間は、自分達には理解しえない彼の苦痛を思って、やはり苦痛を感じているのだろうと思うと、いたたまれないです。

女神の降臨も差し迫って、佳境を迎えつつあるんだという興奮と、物語が完結に向かう寂しさがあります。もっと読んでいたい。いや、第2部が完結した時の「もっと読んでいたい」が実現して、なかば夢を見るような心地でこの第4部と向き合っているわけなのですが。強欲です。

エド視点の番外編。面白かったです。「いい意味で」はつければフォローになるわけではないと、誰かがしっかり指摘するまで使い続けるんでしょうか。指摘するとしたらオーフェンの仕事になりそうですが。
子供の相手をするエドという光景がすごく意外で、でも見守る側の視点が感じられて、エドも昔とは違うんだなあと、やはりしみじみしました(いたるところで、しみじみせずにはいられない第4部)。

20年の歳月を感じさせて胸に沸くものも多く、破局の迫った緊迫感に苛まれる新作でした。とても面白かったです。

最後に腐女子視点で余計なことを言えば。
今回、魔王オーフェンがとても可愛かったです。門を壊して叱られたり、わんことコンビを組んだり、エドと漫才したり、ボリーさんに精神的にいじめられたり。妻子にもエドにも心配され、甥には救出を目論まれ、コギーは彼の娘を見てすぐに察し、キルスタンウッズはつてで協力し、大統領邸は身柄の引き渡しに応じず(ここはまあ色々あるのも分かってるんですが)、オーフェンの愛されてる感がすごい…。
読んでいる方が頭の痛くなるような環境にいるオーフェンですが、周囲の人間との信頼関係は篤く、頭痛を緩和してくれます。

BAD ENDにならないことを祈りつつ、次巻を待ちたいと思います。

自分用メモ

間違ってるかもしれないけど書き出さないと頭が整理できない。

神人 存在確認 確認方法 敵意
魔王スウェーデンボリー 第二世界図塔 なし
運命の女神(過去)ウルズ 文献
運命の女神(現在)ヴェルザンディ 来襲(キエサルヒマ) あり
運命の女神(未来)スクルド ×
海魔メイソンフォーリーン 来襲(海上) あり
デグラジウス 来襲(原大陸) あり
ウォーカー=ガンディワンスロン
  • 戦術騎士団…魔術戦士。現在の最高指揮者はマジク。
  • スウェーデンボリー魔術学校…魔術士+一般人。キムラック系開拓団とキエサルヒマ魔術士系開拓団の妥協点(なのでオーフェンが校長だった)。
  • 開拓公社…キエサルヒマ魔術士同盟と貴族共産会による開拓団。前身は貴族連盟が管理していたキエサルヒマ開拓組織。
  • キルスタンウッズ開拓団…アーバンラマ資本の開拓団。経営者はボニー。
  • 派遣警察隊…初期開拓団の監督から発足。拠点はラポワント市。総監はコンスタンス。
  • 軍警察…大統領配下。
  • リベレータ…貴族共産会。
  • 革命闘士…反魔術士、反資本家。